利尻岳(1721m


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「島全体が一つの山を形成し、しかもその高さが千七百米もあるような山は、日本には利尻岳以外にはない。
こんな見事な海上の山は利尻岳だけである。」(深田久弥)

  


プロローグ
九州育ちにとって北海道は憧れの大地である。高校1年生の夏休み、念願かなって10日間一人で北海道を旅行した。高校入学祝いに、と伯母が旅費を出してくれたのだ。九州から道内に至るまで全て鉄道とユースホステルという貧乏な旅だったが、とても印象的なものだった。摩周湖、襟裳岬、層雲峡、忘れられない風景は数あるけれど、今でも一番強く印象に残っているのは稚内から旭川に向かう、宗谷本線の列車の車窓から一瞬だけ見えた利尻の姿だ。それは言葉を失うほどの強烈な眺めだった。瞬時に胸が締め付けられた。息を呑んでその信じられない景色に目を奪われた時間はわずか十数秒であったと記憶している。摩周湖は1時間眺めた。層雲峡も飽きるまで上を見上げた。しかしわずか一瞬だけであった利尻が今でも脳裏から離れない。そしてその時、利尻は島ではないとはっきりと確信した。それはまぎれもなく海にそびえ立つ山である。しかも日本でも有数の美峰だった。海原の向こうから、大きくそして美しく放たれる青黒い威圧感は本当に見事だった。いつかきっと登る、と心に誓って九州に戻った。



それから二十数年後、深田久弥の「日本百名山」なる本に出会う。利尻岳がそのトップバッターに著されているのを見てバカみたいに喜ぶ(単に北から順に載っているだけだが)。冒頭の文章を読んで共感を覚え、感動にうち震える。自分の代弁者、しかもすばらしい文才の持ち主、が現れたような気がする。


26年後の2002年7月、ANAからメールが届く(私はANAの会員)。9月に「超割り」があり、全国どの路線でも一律1万円(離島便は7千円)。おっ!利尻空港まで17,000円で行ける!今年の夏山(といっても休めるのは9月だけど)は北アルプスの剣岳に行こうと既に決めていた心が動く。恐る恐るB型3号に相談、
「バカモノ、給料下がったくせになに贅沢言ってんの!」。
けんもほろろである。しかし心優しき3号は最後はOKをくれ、期限前にチケットの予約ができた。



さてわが会社には「スーさん」なる人物がいる。アウトドア・釣りの達人で「晴れたらイイね」やNHKの「釣り紀行」、地元のTV局などに出演している「阿武隈の怪人」と言われる御仁である。6月に幌尻岳(北海道・日高山脈の最高峰)に登っているので、さっそくこの話をスーさんに自慢したら、なんと「私も行きます。航空券の取り方教えてください」。というわけでこの「怪人」と一緒に利尻岳を目指すことと相成った訳である。
スーさんは「怪人」なので私ごとき無体力トレッカーが山でついていける訳がない。「これは大変なことになった、余計な自慢なんかしなければよかった」などと激しく狼狽し、「登山口に着いたら、そこからは赤の他人ね」などと冗談を言ったりしてじたばたしていたが、覚悟を決めて一ヶ月前からトレーニングを開始、那須岳男体山と着々と身体の準備を整え、いよいよ9月9日の出発の日を迎えたのである。


尚、「ファミリーハイクML」のヒサゴさん(現在北海道在住 HPはこちら→「のんびり歩く大雪山」)が北海道のMLに連絡を入れてくださったりして、利尻のお勧めの宿情報を提供して頂いた。出発間際までこの無体力トレッカーの利尻遠征を気にかけてくださり、本当にありがたかった


コース・時間

2002年
9月9日(月)

福島空港 → 千歳 → 利尻空港 → 沓形(泊)

9月10日(火)
見返台 6:00→11:00 利尻岳山頂 12:30 →17:00 鴛泊登山口



標高差 1300m



<福島空港→千歳→利尻>
早朝スーさんのお家にお迎え、宿へのお土産(スーさん手作りのレークトラウトの燻製)を持って福島空港へ。この空港は那須から近くて非常に便利、車もタダでずっと置いておける。昨年の屋久島遠征もここから出発した。北海道は何年ぶりだろう?新千歳空港周辺はゴルフ場なども見えたが、その周りもなんだか良さげな原生林や川が見える。千歳での乗り継ぎが3時間と時間をもてあまし気味だったが、14:30頃ようやく利尻空港に到着した。
空港では、次の日の下山後に宿泊する
「和風ペンションみさき」のオーナーが迎えに来てくれている。電話で予約した時、親切なことに今日は沓形の旅館まで送ってくれるという。またザック以外の荷物は運んでおいてくれるとのこと。大助かり。燻製(絶品だよ!)をお土産として渡す。



<沓形>
みさきのオーナーに沓形まで送ってもらう間、ずっと利尻岳を見る。あいにく8合目より雲がかかっている。今宵の宿、沓形の
「中原旅館」の前に到着、ふと道の先を見るとすぐそばに漁港の船が見える。ザックを背負ったまま港まで散歩。あ〜漁港に来るのも久々だなあ。かもめの鳴き声が新鮮だ。空は澄み切った青空、北国らしさを感じる。気温も高いが湿気がなくとってもさわやかだ。


夕食までの間、スーさんと買い物に出かける。近くの金物店でガスをゲット、そしてコンビニへ。意外と普通の「明るい」コンビニでびっくり(失礼!)。きれいな夕空のもと利尻岳の全景を見たい!ということでその足で沓形岬まで散歩する。沓形岬は茫々とした殺風景なところで、キャンプ場や小さなお土産屋さんなどがある。その向こうにガスが取れ山頂までくっきり姿を現す凛々しい山の姿!反対側には、どこまでも広がる北国らしい深い色をした海(ウニや昆布やシャケがうようよいるんだろうなあ)。岬には簡易展望台があり、そこに設置してある望遠鏡で利尻岳を覗く。お〜避難小屋が見えるぞ、稜線もくっきり、どこがルートなのかなあ〜?、どこを通ってもなかなか厳しそうだぞ。ちょっと大変そうだ、多少は気を引き締めなくてはなあ〜と思いながらトボトボと旅館に戻ったものの、お風呂と豪華な食事の前に気分はすっかりただの観光客と化してしまうのであった。


沓形岬にて(左が怪人スーさん)


我々と同じく沓形コースで利尻に登られるという、女性二人組の方と食事の後に意気投合、山の話やMLの話、スーさんのTV出演の話などで盛り上がる。丹沢を中心に登られているとのこと。このお二人とは次の日以降なんと最終日(9月12日)の朝までずっとお付き合い頂く事になる。


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