ホームページに戻る

小説目次のページに戻る

ストーリー紹介のページに戻る

ノヴェライズのページ

「ワールドマスター」の世界を少しでも分かっていただけたらと思って、小説にしてみました。


「ワールド マスター 1  〜 マルカム王国編 〜」

ダウンロードできます。(ただし、一太郎Ver.6形式です。すみません)


第二章 「猿人の森」

 

         1,

 

 一郎とフィビーは、再び、森の奥へと進んだ。一郎としては正直なところ、森を抜け出したかった。今ごろ、フィビーが助け出されたことを知って、猿人達は騒いでいるに違いない。そこへのこのこと戻ったらまた猿人に捕まるのではないか。一郎はやや不安を感じていたが、フィビーの前では口に出す訳にはいかないと思った。

 それよりも、一郎はここがどこなのか知りたかった。

「フィビー姫、お尋ねしたいことがあるのですが」

 歩きながら、一郎は後を付いて歩いているフィビーに声をかけた。

「何でしょう、イチ・ロー様?」

「ここはどこですか?」

「迷いの森ですわ」

「いえ、そうではなく、五大陸のうちのどこかをお聞きしているのですが‥‥」

「五大陸‥‥? なんことでしょう?」

 フィビーの返事に思わず一郎は振り返った。フィビーの表情はきわめて真面目だった。それを見て一郎は不安になった。

「この世界は、海と五大陸、それに大小の島々からできているのはご存じですよね?」

 フィビーは微かに首をかしげて考え込んでいるようだった。そして、一郎に、

「わたしの知る限りでは、大陸は二つだけです。このマルカム王国があるマルカム大陸と、東の海の向こうにあるツァイガル大陸です。わたしには、イチ・ロー様のおっしゃる意味がよく判りません」

と、告げた。

「そ、そんな」

〔嫌な予感がするぞ〕

 一郎は嫌な予感を振り払うべく、次の質問をした。

「そ、それでは、フィビー姫、日本という国はご存じですか?」

「ニ・ホン、ですか? いいえ」

「それじゃ、アメリカは? イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、アラブ、イスラエル、インド、‥‥」

 一郎は思い付く限りの国の名前を挙げていった。しかし、フィビーの首は、空しく横に振られた。

〔そんな、ばかな〕

 一郎は微かな望みを抱いて最後の質問をした。

「フィビー姫、この世界のことをなんていいますか? わたしの国では、『地球』と言いますが、‥‥」

「この世界の別の名前ですか? 特にありませんが、『ワールド・マスターの支配する世界』、という言い方をすることはあります」

 それを聞いた一郎は愕然とした。

〔ここは、中東どころか、地球でさえ、ないのか〕

 一郎は軽いめまいがして、思わずその場に座り込んだ。

「イチ・ロー様? どうかなさったのですか?」

 フィビーが心配そうにイチ・ローの顔をのぞき込んでいた。

「フィビー姫、少し、疲れました。休ませてください」

 一郎は、顔を伏せたまま言った。一郎は何とか現状の説明をつけようと、考えを巡らせていた。

 フィビーは、心配そうな顔をして、少し離れたところに腰を下ろして、じっと一郎の方を見ていた。

〔いったい、どうなってんだ? 俺は、異次元の世界へでも飛ばされたのか? 異次元の世界、ワールド・マスターが支配する世界、か。どうすれば、元の世界へ帰れるんだろう〕

 一郎は顔を上げて、フィビーの方を見た。フィビーの不安げな表情に、一郎は気を取りなおした。

「さあ、フィビー姫、行きましょう」

 一郎が意外に早く立ち直ったので、フィビーは何の疑問も抱かず、一郎の後をついて歩き出した。

 

         2,

 

 フィビーの話によれば、この森に住む猿人は、だいたい三十人ぐらいで一つの部落を作って生活をしていると言うことだった。フィビーたちを襲った猿人も沢山ある部落のうちの一つに過ぎないというのが、フィビーの見解だった。

〔それでも、三十人は多いよな。俺一人で三十人も相手にできる訳ないし、何か、作戦を立てる必要があるな。そのためにはもっと情報を集めないと〕

 しかし、フィビーから得られる情報には限界があった。となると、一郎は自分の力でできるだけ情報を集めなければならなかった。

 一郎は猿人に見つからないように次の情報を集めることができた。リアニの実の所在、猿人の正確な数と位置、脱出ルートの確保、などである。

 リアニの実は、本来リアニの木になる果物だが、既に実はもぎ取られて、猿人のボスの手元にあった。猿人の正確な数は、男性が十五人、女性が十一人、子供が六人であった。

 一郎は猿人の村の様子をじっと観察した。そして、ある作戦を考え出した。一郎はその作戦をフィビーにそっと耳打ちした。

「という作戦なんだけど、どうかな?」

 フィビーは、目を大きく開いて一郎を見つめていた。

「やっぱり、甘いかな?」

「違います、イチ・ロー様。それどころか素晴らしい作戦ですわ。わたしの考えではそれの足元にも及びませんわ」

 フィビーに手放しで褒められて一郎はやや照れた笑いを浮かべた。

「では、準備にかかりましょう、フィビー姫」

 一郎とフィビーは集められるだけの蔓草と枯草や枯木を集めた。

 一郎の作戦は、三段階にわたる陽動作戦だった。最初に食糧庫に火を放って大半の注意を反らせ、次に集まってきた群衆に向かって簡単な矢を打ち込み混乱させる。仕上げに猿人のボスに向け火矢を放ち、その場から引き離し、空白を作る。一郎はその隙にリアニの実を奪い取るのである。

 二時間後、すっかり日が沈んで、微かに赤い色が空の端に残っている頃、一郎たちは作戦を開始した。

 猿人たちは広場の中央に集まり、炎を囲んで踊りを踊っているように見えた。猿人たちのボスは炎から少し離れたところにある岩の上に果物やリアニの実に囲まれて悠然と座っていた。

 猿人たちの奇声が大きくなり、宴も最高潮に達したと思われたとき、一郎は作戦開始の合図をフィビーに送った。フィビーは黙ってうなずくと一郎の側を離れた。

 フィビーがある程度離れたところで、一郎は手元の蔦を切った。その蔦は何本かの木の幹を回って一本の木につながっていた。蔦によって曲げられていたその木は、蔦から自由になり、びんとまっすぐになった。その反動を利用して、その木から火矢が数本飛び出した。

 三本の火矢が、猿人たちの食糧庫らしき建物の屋根の上に刺さった。乾燥した葉でできた屋根はあっという間に火が広がった。

 それを見た猿人たちの間に動揺が広がった。火を消そうと五、六人の猿人が駆け寄って行くのが見えた。

〔よし、次だ〕

 一郎は二本目の蔦を解き放った。今度も、さっきとほぼ同じ場所から火矢が数本飛び出した。それを見た猿人たちは悲鳴とも怒声ともつかぬ叫び声をあげた。さらに三人が消火に加わり、他に五人ほどが火矢の飛び出した方へ走りだした。

 まだボスの側には三人の猿人が残っていた。

〔これで最後だ〕

 一郎は三本目の蔦を解き放った。今度は別の方角から火矢が飛び出し、ボスの側に落ちた。

 ボスは疑いようのないハッキリとした怒声を上げ、その場を離れた。側にいた三人もそれに従った。

〔やった〕

 広場が空白になった。

 一郎は木から飛び降りると、一直線にリアニの実を目指して走った。

 ボスの座っていたすぐ側に、金色に輝くようなリアニの実があった。一郎は走り抜けながらリアニの実をつかんだ。一郎は後ろを振り向かずに全速力で駆け出した。

〔やった。成功だ〕

 後はフィビーの待つマティーの墓まで走り続けるだけだった。幸い一郎の後をつける気配はしなかった。

〔このまま、この森を脱出だ〕

 一郎は早くフィビーの喜ぶ顔がみたいと思った。

 その時、前方から女の悲鳴が聞こえた。疑いようもなく、それはフィビーのものだった。

 一郎ははっと胸を突かれて、必死に声のする方へ走った。

 やがて一郎の視界が開けてきた。

 まずフィビーの姿が目に入った。暗闇が森の中を満たしていたが、彼女の細く白い腕が光を放っているように見えた。

 次にフィビーの傍らに例の猿人のボスが立っていた。ボスの身長は思っていたより大きかった。フィビーが両手を上に伸ばして足りないくらいだった。

〔二メートル半、というところか〕

 実際にフィビーは両手を上に伸ばしていた。その意味を一郎は理解した。

 フィビーは猿人のボスの右手で両手首を握られ苦しそうにもがいていた。ボスは軽がるとフィビーを持ち上げていた。

 ボスが舌嘗めずりしているのがわかった。ボスの左手がフィビーの胸元に迫った。

〔わっ、馬鹿、やめろ〕

 この時一郎はフィビーのところまで後五メートルに迫っていた。

 一郎はまっすぐボスの方へ向かって体当りをした。ボスがフィビーの服を胸元から引き裂こうとした瞬間だった。

「ウオッ?!」

「きゃっ」

 ボスは一郎の体当りにめんくらい、フィビーをつかんでいた右手を離した。しかし、左手が離れずに残った。大きな音がして、フィビーの服は裂けた。

 フィビーの服は前を縦に引き裂かれ、その裂け目からフィビーの白い肌が覗いた。そのままフィビーは地面に投げ出された。

 一郎はそんなことには気が付かず、投げ出されたフィビーの体を抱き上げた。

 その一郎に、周囲にいた他の猿人が奇声を発しながら殺到した。猿人たちは手に棍棒のようなものを振りかざしていた。

 四方から迫ってくる猿人を見て一郎は逃れられないのを知った。

〔これまでか〕

 一郎の視線がフィビーの顔を捉えた。フィビーの表情は一郎を信頼しきっていた。

〔そうだ。ここで諦めるわけにはいかない〕

 一郎は、ポケットの中で最も棒に近いものを取り出した。それはペンライトだった。

 一郎がペンライトをつけたのは周囲が暗かったからに過ぎなかった。そのペンライトの光を猿人に向けたのも相手を確認するために過ぎなかった。それが信じられない効果をあげた。

「ギャー」

 光を向けられた猿人は悲鳴をあげると目を両手で覆いながらその場にうずくまった。最初、一郎はペンライトの光とうずくまった猿人との因果関係に気が付かなかった。

 しかし、それが二度も続けば。

 一郎がペンライトの光を別の猿人に向けたとき、同じ事が起こった。

「ウゴーッ」

 一郎はペンライトが効果的な武器であることを知った。理屈はどうでもよかった。今はこの窮地から脱出できればよかった。

 一郎はペンライトを振り回した。猿人たちはバタバタと倒れていった。

「今だ。走れ!」

 一郎はフィビーを抱き起こして促した。

 フィビーが不思議な表情をしていた。それは、一郎が命令口調でしゃべったからだった。

「ぐずぐずするな。急げ!」

 一郎は突き飛ばすようにフィビーの背中を押した。

 命令されることになれていないフィビーは、戸惑いながらも走りだした。

 一郎はフィビーの背後を守るように付き添いながら、猿人たちの逆襲に備えた。

 しかし、一郎たちを追いかけようとする猿人はいなかった。すべて地面にうずくまっていた。

 それでも、一郎は油断しないようにペンライトを構えながら後ずさりをした。

 ある程度離れたところで、一郎とフィビーは一緒に走りだした。

 やがて、木が少なくなり、森のはずれに差し掛かった。一郎の頭上を覆っていた枝や葉は無くなって星空が広がり始めた。森の中から聞こえる獣の鳴き声も遠いものになっていた。

〔やった〕

 あの忌々しい森をやっと抜けることができた、そう思っただけで一郎はほうっと全身の力が抜けるようなため息をついた。

 一郎の側でフィビーが笑った。振り返った一郎は星明りの中で花が開くような笑顔を見たような気がした。

 

3,

 

「では、フィビー姫、帰りましょうか、あなたの国へ」

「はい、イチ・ロー様」

 一郎が前を、フィビーがその後に続いて、二人は新たな旅を始める予定だった。

 その予定は頭上から降ってきた音に邪魔された。

 音の主は先ほどの猿人のボスだった。

 猿人のボスは木の上から飛び降りて、フィビーの背後に立ち、フィビーを後ろからはがい締めにした。

 フィビーが鋭い悲鳴をあげた。

「イヤーッ!」

 振り向いた一郎は、ペンライトの光を猿人のボスに向けた。

 だが、ペンライトの光が猿人のボスを捉えるより早く、ボスの足が一郎のペンライトを蹴りあげた。

「しまった!」

 ペンライトは宙に舞い、地面に落ちて光を失った。光が消えるのと、ペンライトが割れた音は同時だった。

「グホッ、コノヤロウ」

 猿人のボスはあやふやなアクセントで言葉を話した。

「コノ女、オレノダゾ。オレノ、嫁サンニナル」

 武器を失ったのはショックだったが、一郎はボスの一言に頭に血が昇った。

「勝手なこと、言うんじゃねえ!」

 一郎は猛然とボスに向かって突進していった。

 そのボスがにやりと笑ったように見えた。ボスは左手だけでフィビーの首を鷲づかみにした。そして、突進してくる一郎に向かって、フィビーの体を突き出した。

「くっ」

 一郎の足が反射的に止まった。

 フィビーはすでに気を失っていた。その手足はだらりと垂れ下がっていた。

「バーカ」

 そのフィビーの体を盾にしたボスは、一郎をあざ笑いながら、動きの止まった一郎に向かって右手を振り挙げた。

 その右手は一郎の頬をかすめた。フィビーの体を盾代わりに突き出された瞬間、一郎は体を引いていた。

「彼女を放せ!」

 一郎は心のどこかで自分が切れかかっているのに気づいた。

〔どこまで冷静でいられるかな?〕

「グヘッ。グヘヘッ」

 ボスの不気味な笑いが響いた。

「イイカ、コノ女ハオレンダゾ」

 一郎は飛び出しそうになるのを堪えた。フィビーを助け出すチャンスが欲しかったからだ。

〔それにしても、コイツ、俺を挑発してるのか?〕

 ボスの行動は明らかに一郎を誘っていた。それもあるために一郎はボスに飛びかかるのを自重していた。

「コノ女ハナア、コウヤッテ」

 ボスは破れかけたフィビーの胸元に手をかけた。一郎が声を出す間もなく、ボスはフィビーの服を一気に引き裂いた。フィビーの着衣の上半身右半分が剥ぎ取られ、フィビーの白い胸が露になった。

「裸ニシテ、ナメマワスノガ、イインダゾ」

 ボスは、フィビーの体を引き寄せると赤黒い舌を口から延ばしてみせた。

「そんな、こと‥‥」

 一郎はもうじっとしてなどいられなかった。

「させるかーっ!」

 一郎は勇躍ボスに向かっていった。

〔罠よ。気を付けて〕

 若い女の声が一郎に聞こえた。

〔罠?〕

〔そう。ボスの手前に毒蛇の巣があるわ〕

 一郎はそれがフィビーの声だと思った。

 一郎はためらわず地面を蹴った。一郎の体が宙に浮いた。

 ボスが目を見張った。一郎の体はボスの体も飛び越え、ボスの背後に降り立った。ボスが振り向くよりも早く、一郎はボスの背後から飛びついて、ボスの首を締め始めていた。

「グエッ!」

 ボスがたまらずフィビーの体を離した。そして、両手を使って、くびを締めつける一郎の手を振り解こうとした。

 しかし、一郎も負けてはいられなかった。

 一郎とボスの力較べが続いた。

 やがて、苦しさに耐えられなくなったボスは、一郎を木の幹に叩きつけることを思い立った。

 ボスはゆっくりと後ずさりを始めた。

 一郎の背中が木の幹に当たった。

 ボスは、力を込めて一郎を木の幹に叩きつけようとした、その時だった。一郎の視界の隅で、放り出されたショックで再び気がついたフィビーがゆっくりと起きあがろうとしていた。

〔無事だったんだ〕

 一郎は右足で思いきりボスの右膝の裏を蹴りつけた。ボスがバランスを失って仰向けに倒れた。

 一郎はボスの下敷になるより早くボスの体から離れた。

 ボスはそのまま倒れ込んで、木の幹に頭をぶつけた。さすがに鈍い音がした。ボスは鋭い視線で一郎をにらむと手を震わせながら上半身を起こそうとした。

 一郎はさっと身構えた。

「グワッ」

 それはボスの断末魔の悲鳴だった。

 ボスはぐったりとなって動かなくなってしまった。

 一郎は呼吸を整えるとフィビーの方を振り返った。

「じゃ、行きましょうか」

 振り返った一郎の胸に、ドンと、フィビーが飛び込んできた。

「フィビー姫?」

「よかっ、た‥‥」

 ほっとしたのか、フィビーは、一郎の胸にすがりつくと、一回肩をビクッと震わせた。

 一郎も、それに合わせるように体を震わせた。女の子にすがりつかれるなど、一度も経験したことがなかった。

〔どうしよう〕

 どう声をかけていいかわからない、のが一郎の心境だった。

 次第にフィビーの肩から体全体が震え始めた。かすかに、すすり泣くような声が伝わってきた。

 一郎の鼻を、フィビーの髪から昇る甘い匂いが刺激した。一瞬、一郎に「男」としての本能が目覚めた。

 しかし、次の瞬間、一郎は自分の本能を押さえ込んでいた。「受験生」という自覚が本能を押さえることも学習させていた。

 一郎は優しく、フィビーの肩に手を置いた。冷え切った体の感触が一郎の手のひらに伝わってくる。

 反対に、フィビーには一郎のぬくもりが伝わったのだろう。フィビーは、震えをピタッと止め、顔を隠して涙を拭く仕草を見せた。

 しばらくして、フィビーが顔を上げたとき、一郎はそのまぶしい笑顔に心を奪われた。

「イチ・ロー様」

 フィビーが声をかけなかったら、一郎はそのまま凍りついたままになっていただろう。

「はい」

 声を出すことで、一郎は理性を呼び戻した。

「じゃ、行きましょうか。フィビー姫」

 一郎は肩に置いた手をはなして、フィビーを促した。

「はい」

 フィビーはうなずくと、自分の鞄を拾い上げた。

 二人の前には、遥か彼方まで砂漠が広がっていた。

 

         〇

 

 砂漠に向かう二人を、樹上で見つめる二組の瞳があった。

「やれやれね」

 女の声がため息とともに漏れた。その声は、先ほど一郎にアドバイスをした声だった。

「危なっかしいたら、ありゃしない。ワタシが魔法使って持ち上げなかったら、あの坊や、ボスザルにまともにぶつかっていったわよ」

 女の声が向けられた相手は返事をしなかった。

「ほんとに、あの坊やが『チャレンジャー』だと思う?」

 しばらくして、低い声が答えた。

「ウィズ」

「なによ、コンプ」

「我々は、マスターの命令で動いている。マスターの命令は、『チャレンジャー』かどうか確認することだ。彼が剣に触れるまでは彼を確保しなければならない」

「はいはい。おっしゃるとおり」

 ウィズと呼ばれた女は、視線を一郎たちに戻した。

 一郎たちの姿は砂丘の向こうに消えかかっていた。

 


ホームページへ

小説目次のページへ

「第1章」へもどる

「第3章」へすすむ


このホームページのご意見・ご感想は次のメールアドレスまで

mailto:nv4wm@opal.famille.ne.jp