屋久島(宮之浦岳 1,935m)


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(このページは大変重いです)


<11月30日(金)>
3日目の朝だ。5:30に目が覚める。
身体が疲れてあちこち痛む。動きたくない。もう二人は用意を始めている。えらいなあ。まだシュラフから出たくない。身体が起きないのだ。6:00頃一人だけ出発した「じゃお先に」「気をつけて」あれ?二人パーティじゃなかったんだ。外はまだ薄暗い。深い森のせいなのか、天気が良くないせいなのか?そろそろシュラフから起き出すRIKI。トイレに行こう。外に立派なトイレがある。雨は降っているが霧雨程度だ。土間でお湯を沸かす。ゴーという音、いつ聴いてもいい音だ。もうひとりは奥で荷物をごそごそやっていたが、やがて一緒に土間でお湯を沸かす。顔はよく見えない。「どちらから?」「はい千葉です」「?!」顔を良く見ると昨日のヤツだった。「な〜んだ、さっきの人と一緒だと思っていたんで、まったく気がつかなかった」「(微笑)」・・昨日の印象とはちょっと違うなあ。二重人格か?聞けば淀川にバイクを置いているらしい。タクシーで取りに行くそうだ。「それでは!」と7:00頃また颯爽と出て行った。(思い出せないが何かに似ている)


また一人になった。ゆっくりご飯を作る。ゆっくり水を汲みに行く。ゆっくりもう一度お茶を沸かす。ゆっくり朝の森を楽しむ。何事もゆっくりとこの森では時間が過ぎていくのだ。ゆっくりしすぎて小屋を後にしたのは9:20だった。失敗失敗、ははは。


こんなことやってて出るのが遅くなった。



巨木劇場

小屋を出るといきなり巨木劇場。遠くから「巨石」かな?と思って近づいてみるとスギの切り株だった。これは1日目よりすごいよ!しっとりとした森の雰囲気は息を呑むほどだ。苔むしたスギの木に思わず顔をスリスリしてしまう。緑の怪人が数えられないくらいたたずんでいる。何千年もの時の流れがあり、そしてこの先も何千年の歴史を刻んでいく、今一瞬同じ空気を共にしている。素晴らしい瞬間。足は疲れていたがそんなものは忘れさせてしまう。空気も深緑色。山の上もいいけれど、森の中の方が数千倍もいい。まわりは全部自然の不思議さであふれている。木々が質問をあびせてくる。絶対に答えられない、想像さえもつかない。1万年前に1万年動くカメラと1万年分収録可能なビデオがあれば、それを早送りして見られるのに・・・。いやそれを見るのは神への冒とくか?・・・頭が混乱する。落ち着くには木に手を触れ、顔をくっつけること。自然にそれを実行してしまう。表現できない原始の森。


巨木劇場




縄文杉
10:40縄文杉。観光客が多い。観光客といってもここまで下から登ってくるのは大変だ。お疲れ様!RIKIのデカイ荷物を見て驚く若い女性。写真を撮ってください攻撃。OK、何枚でも撮ってあげますよ!しかし凄いなこの木は!でもさっき見た切り株↑の方が感動したよ。ちょっとほっとして亀足隊長にTEL。ここでは不思議と携帯電話が良好に通じるのは本当だった。仕事中悪かったなあ。タクシー会社にもTEL、15:30〜16:00頃に荒川口に来てくれるよう依頼する。間に合うかね?


記念写真。気分はただの観光客 縄文杉全景



この大株歩道は縄文杉見物の人が大勢登ってくるため、整備がしっかりしている。木道が「ちょっとやりすぎじゃないのぉ?」と思うくらい設置してある。おかげで大きな段差を降りずにすむので大助かりだが・・。ちょっとスギに食傷気味になってきた。大王杉はパス。13:00前にウィルソン株に到着。「デケ〜!!」こりゃすごいわ。写真じゃいっぱい見たけどやっぱ本物は違う。何かに似てると思ったら、昔ドラクエに登場していた木のモンスターだ(知ってる?)。そのままパスして先を急ごうと思ったが、せっかくだからと思い直し切り株の中に入ってみる。入って良かった。切り株の中とは信じられない。広い。少なくともRIKIの家のリビングより広いぞ。10畳以上はあろうか。祠が祭ってある。な、なんと沢が流れている。写真を撮るが魚眼レンズでもない限りとても納まりきれない。屋久杉は普通のスギより樹脂が6倍以上含まれているらしく、切り株でも朽ちることがないらしい。まさに自然の驚異。縄文杉見物の団体が降りてきたので、ご飯は食べずに先を急ぐ。近くの翁杉は見事だった。



ウィルソン株
ウィルソン株内部




20分ほどで大株歩道入り口に到着。「わ〜い、トロッコ道だあ」RIKIは鉄道大好きである。山の中の鉄道は人工物で最も自然に近いものだと思う。しかしここから長〜いトロッコ軌道歩きが始まるのだ。コースタイムで小杉谷事業所まで1時間40分、そこから終点荒川口まで45分、計2時間25分の地獄のスタンド・バイ・ミー。タクシー予約の16:00にはギリギリだ。途中ゆっくりメシを食っている暇ないなあ。写真だけはしっかり撮らなきゃ。


軌道はフラットなので(当たり前)歩くスピードは出るが、不思議と今まで山の中では何ともなかった肩が、引きちぎられるように痛い。ザックがグイグイ食い込む。足は全く元気だったが、これには参った。途中で昼飯代わりに菓子を水で流し込む。ザックを下ろすと羽が生えたようだ。去年(2000年)の槍ヶ岳でも上高地からの平坦な道の方が肩がつらかったことを思い出す。
右手には
安房川の水の音が大きい。枝沢を軌道が渡る箇所は絶好の撮影ポイント。途中の三代杉、その何百年にわたって激しく生きようとする姿勢に感動。苛烈だ、極めて苛烈。雨はとっくにあがり(と言っても今までもそんなに降ってはいない)時折青空も見える。標高が下がるにつれ天気も回復するようだ。


トロッコ道 屋久島のには紅葉は無いものだと聞いていたが(2枚ともクリックで拡大)


トロッコ軌道で作業中のおっちゃんから声をかけられる「しばらくしたら作業トロッコが通るから気をつけて」「は〜い(超ウルトララッキーじゃ!)」しばらく歩いていると遠くから汽笛の音。「お〜きたきた」カメラを撮りだす。撮り損なったら一生の不覚。汽笛が近くになる。やがてトロッコ機関車が見えてきた。ものすごい音だ。通り過ぎる瞬間シャッター、ちょっとブレたかも。まあいい、いい記念だ。



15:10小杉谷事業所跡に到着。後ろから追いつかれた年配の女性にシャッターを押していただく。軌道が安房川に向かってほぼ90度カーブする突き当たりに「小杉谷小学校跡」がある。当時が偲ばれる懐かしい光景だ。目をつむると子供たちが遊んでいる声が聞こえてきそうだ。
さてこのすぐ先が名物の
安房川を渡る鉄橋だ。高所恐怖症の人は下におりて川を渡るコースもあるがRIKIは「平気」なのでそのまま軌道の鉄橋を渡る。途中で何度も振り返ったり、立ち止まって川を見つめたり、なんだかすぐに渡ってしまうのがもったいないような気がして、ゆっくり時間をかけてこの瞬間を味わう。川の上に流れている空気はなぜだか懐かしい香りがする。


小杉谷事業所跡 名物の鉄橋


こういうのが好きです
(クリックで拡大)
実に美しい
(クリックで拡大)
う〜んなかなかレトロ
(クリックで拡大)



さらに身体にムチ打って軌道を歩くこと45分、岩をくりぬいたトンネルを抜けとうとう
荒川口に到着。時間はきっかり16:00、タクシーの運転手が手を振っている。なんと初日に淀川まで乗せてくれた運転手さんだ。疲れた身体を座席に深く沈める。。。。終わった。

「どうでしたか?感動されましたか」と運転手さん。「たっぷりと。
一度だけじゃダメですね。でも百回来たってダメかも知れない。奥深い、この島は」安房に向かう道の途中、はるか上に太忠岳が見える。刀のような岩が山頂に突き出ているその姿。とてもとてもはるか上だ。昨日登った宮之浦岳はそれよりまだ500mも高い。やっぱり驚異的な島だ。そんなことを考えながらタクシーの揺れにボーっと身を任せる。身体全体から力が抜けている。それは3日間の山歩きの疲れだけではないことは明らかだった。



エピローグ


民宿
「華のや」さんには大変お世話になった。若いオーナーは東京・深川のご出身だという。「ヨソ者好き」の心温かい島民のおかげで屋久島に念願の民宿を開業できたのだそうだ。宿泊当日はあの焼酎「三岳」を飲みながら色々お話を聞かせていただいた。とってもスマートで気さくなオーナーのおかげで、今日屋久島に来た若い二人連れのトレッカーと4人で仲良く楽しい時間を過ごせた。山の疲れが、窓から入ってくる気持ちがいい風と共にゆっくりと癒されていく。奥さんは妊娠中で実家の大阪に戻られていると言う。もうすぐ産まれるとのこと。元気なお子さんを産んでいただきたいものだ。翌日は朝一番の飛行機に間に合うように車で空港まで送っていただいた。この民宿での一夜が屋久島の思い出に一層の彩を加えてくれた。


飛行機の窓からずっと見続けた



おわり


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