屋久島(宮之浦岳 1,935m)


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<11月29日(木)>
5:00に目が覚める。
身体が痛い。筋肉痛か。重い身体に鞭打ち入り口を開けて空を見る。素晴らしい快晴「ラッキー、今日は絶景の宮之浦岳ゲットだぜ〜」。期待に胸が膨らむ。朝飯を作る、パンとスープ。今日はあわてることもないと思いのんびり用意する。外で木々が風にざわめく音が聞こえてきた。「?」外に出てみるとガスがかかっている。「ゲえええ〜さっきまであんなに天気良かったのに〜」。まあ予想されたことだ。気圧の移動に伴い風が吹くことはわかっていた。標高の高い屋久島に海から湿気を吸った風がぶつかると上昇気流で必ず雲が湧く。屋久島の降水量が多いのはそのせいだ。しかしこの天気の変わりようの早さは・・。「頂上での大展望」のはこの時点ではかない夢と消える。


7:45石塚小屋出発。昨日苦しんだ道を花之江河目指し戻る。不思議と一度通った道は速く過ぎていくような気がする。迷ったのは一箇所だけ。でもやっぱり悪路なことには変わりない。ガスで遠景は効かない。相変わらず杉の大木のみがニョキ〜っとガスに浮かんでいる。幻想的で「これもこの島の特徴的な光景なのかな」と思う。あの怖い一本橋を渡るとすぐに花之江河だ。9:00に到着した。今朝の花之江河はなんにも見えない。風がビュンビュン吹いて昨日の楽園的な印象とは大きく異なっている。休憩もそこそこに宮之浦岳の縦走路に入る。雨は大丈夫そうだ。


ガスで幻想的に



水を補給する必要がある。地図では投石平の手前で水場のマークが。安房川の南沢の源流部と思われる場所をしばらく進むと水の音が聞こえてた。よしよし、さっそく音の方向へ。岩の間から水がしたたり落ちている。が、量が少ない。「??」よく見ると岩の上部では水量は多そうなのだが、岩の後ろに大部分が落ちているらしく手前にはわずかな「おこぼれ」程度しか水がきていない。時間をかければ問題ないが、かったるそう。この岩にそって登山道は上に上がっているが、ロープがあるほどの急坂。意を決してロープを掴んで登ってみる。5mほど登って、岩の上をトラバースしやっと水流が多いところに到達、ここでストレスなく補給ができた。


水を補給してさらに進む。相変わらず風が強い。特に稜線の西側に出るとガスが次から次にあがってくる。視界は100mほど。もう森林限界は過ぎた。きっと晴れていたら素晴らしい風景なんだろうなあ。大きな岩もゴロゴロ現れてくるようになると投石平付近だ。ボスのような大岩に立つ。う〜んやっぱりガスしか見えない。風は左から右に吹いたりやんだり。不思議とあまり寒くない。昨日聞かされた「雪」はなかった。ボス岩を降りようとすると若い女性が一人でウロウロしている。道が分からなくなったらしい。「僕がいる方向に登るんですよ」「ああそうなんだあ、すみません」。ガスはこの程度でも方向を狂わす。落ち着いていればマークを見落とすこともないだろうに。


投石岩屋はなるほどデッカイ岩だ。屋久島の上部、森林限界より上はこんな岩がゴロゴロしているようだ。昨日見た高盤岳のトーフ岩もそのひとつだ(あれはホントに不思議な岩だけど)。夏は岩の下でビバークする人も多いらしい。投石岳の西側斜面(と思われるところ)をトラバースする道が続く。地図ではずっと稜線の西側トラバース道になっていたが、気がついたら右手、つまり東側に沢が現れた。風もピタッと止んでしまった。「あれ〜おかしいなあ??」「まさか道間違えたかな〜?」間違えるはずがない。目の前にマークもしっかりついている。念のためザックをおろし、中からガイドブックを確認する。結論からいうと地図(昭文社・山と高原地図)が間違っていることがわかった。投石岳と安房岳の鞍部あたりは縦走路は一時的に稜線の東側に出るのだ。安心して先に進む。


やがてまた稜線に西側に出るとまたもや風が左下から吹き付けてくる。遠景は真っ白。う〜ん残念。宮之浦岳も見たかったが、なんといっても見たかったのが翁岳。山頂に見事な大岩がデーンと居座っている異様な山なのだ。さすがの「スーパー晴れ男」も屋久島の変わりやすい大自然の前では無力だったのでR。もうすっかり森林限界をすぎてササが一面に生い茂っている。


やっと写真登場。ササ上の岩



翁岳の西側斜面(と思われる)場所を進む。地図ではこのあたりに水場があると書いてあったが、確認できなかった。ちょっとした広場のようなところはあり、地面が濡れていたが、補給できるほどの水はなかった。まわりが見えないと、ここが地図のどのあたりなのか正確にはつかめない。12:00も過ぎたので栗生岳と翁岳の鞍部で飯にしようと決める。だんだん足がくたびれてきた。首から背中にかけてちょっと痛い(ザックは出発前に計ったら15kg以上あった)。


やがて鞍部らしきところに到着。時間は12:30。ここでの昼飯は「キムチラーメン」とアルファ米と予定していたが、にわかに風がきつくなり、バーナーの火もあおられそうなので(実際いくら風を防いでもお湯が沸かなかった)残っているパンだけで腹を満たす。やっぱり何でも面倒になってきたのか、風がよけられるところを探す気力がない。ツェルトも持参していたが、そこまでする必要もないと思った。30人くらいの団体が追い越していった。


12:45、鞍部出発、最終アタックだ。急登だがそれほどつらくなく登りやすい。息は切れるけど、北岳のように心臓が炸裂するような感じではない。足の筋肉も大丈夫そうだ。(なんだかんだいっても2000mは無い山なので、体力的には助かる)。30分ほどで大岩がある栗生岳頂上に到着、それからさらに登ること15分、ついに九州最高峰に到達した。やった〜!
宮之浦岳・1,935m・2001年11月28日13:30。日本百名山20座目だ(あと80もあるんだなあ)。


宮之浦岳山頂


山頂には先客が一人いた。若い学生さん風だ。お互い写真を撮りあう。風が下からガスとともに強く吹きあげてくる。上空は雲がすごいスピードで流れている。やっぱ何にも見えない。期待していなかったのでガッカリもしない。「今日はどこに泊まられますか?」と聞かれたので、改めてそういえば今日泊まるところをはっきり決めてなかったことを思い出した。「明日天気が回復しそうなら、永田岳をやってその先の鹿之沢小屋に泊まり、明日朝にこの山の再アタックを考えているのだけど・・・」「明日雨らしいですよ」。人の期待を粉々に砕くヤツだ。「千葉から来ました。百名山目指しているんです!これからどんどん登ります!」・・そんなこと聞いてないって、目指すのはいいけどピークハンターだけにはなってくれるなよ・・・「今日は新高塚小屋に泊まります」・・あっそう、(じゃあ俺は高塚小屋にしようかな〜♪、な〜んかウザそうだしぃ〜)。話を聞いてあげている風で実は全く聞いていない、その特技を大いに発揮して適当に相槌をうつRIKI。早く出発してくれないかなあ、と思ったら「それでは!」と颯爽と消えてくれた。


ふ〜一人になった。ウザイやつだったが、山が好きなのだろうから、まあいいかあ。彼が消えて10分ほどした時、なんと突然雲が明るくなった。「!!」流れる雲がだんだん薄くなってきた。真上で青空が一瞬見えた!「おおお、北岳の奇跡が再現か!!おおおお!」。目の前の雲が全部切れ、大展望が広がる予感がしてしばらく粘ってみるが・・・予感だけだった。残念。あきらめて下山する。山頂を離れたのは14:15。


下りは大の苦手。運動神経も悪いし、バランス感覚も劣る。したがって歩くのが遅い。焼野三叉路まででもう疲れる。永田岳方面に行く気力なんてこれっぽちも無い。途中に雪が道に残っている。「やっぱ降ったんだあ」。展望がないと歩く楽しみも半減かあ〜、平石に到着してそう思ったところ、だんだんガスが切れる瞬間も出てきた。5分に20秒ほど遠く北側が見えるときがある。その時みえる山々の連なり「ほんと島かよ、ココ」。秩父より山が深いのでは?少しだけだが遠望が効き出した。永田岳や宮之浦岳が見えるほどではないが、ちょっと離れたところにある丘陵やそれに寄生するかのような大きな岩が見えだした。「お〜イイゾ、イイゾ」
ひとつの丘陵のトップに登りそしてなだらかに下る、また次の丘陵を、というかんじで
だんだん体力を奪われていく。いい加減飽きてきた頃、坊主岩が見えた。地図を確認「まだここかあ」がっかりする。さんざん下った感じがしたのにぃ〜。このあたりから背が低い木が現れだす。そしていきなり巨木!「や〜、またスギだあ」。だんだん木が高くなってくる。いよいよまたあの超越的な森に突入だ!


山頂からの下山路、雪が残る。
少しずつ遠くが晴れてきた。
この山の山頂を銃走路は通る。


さっきの写真の山頂部にある石
お〜スギが出てきた〜。(クリックで拡大)
坊主岩


山ではガスで展望に恵まれなかった反動か、この森に戻ってきてなんだか懐かしいような、ほっとするような不思議な感じがした。命を感じる。道は大きな根が縦横無尽に張り出してとても歩きにくい。段差が激しいのだ。疲労がピークに達する。「つらいよ〜疲れたよ〜」途中、第2・第1展望台と書かれたところに出くわすが「なんでここが展望台なの?」展望が効く場所ではないのだ。頭の中に?マークをたくさんつけながら下ると、やがて新高塚小屋に到着。時間は17:30でもう薄暗くなっていたので、しょうがないのでここに泊まることにする。身体は疲労しきっている。さっきの若い兄ちゃんどうしてるかな?
巨スギの森に帰ってきたぞ



小屋はRIKIの他に2人いた。一緒にメシを作っている。暗くて顔は見えないが友達二人で来ているようだ。あれ?あのウザい兄ちゃんは?この先の高塚小屋に行ったのかな?ま、どうでもいいや。荷物をおいてRIKIもご飯!昼間食べ損ねた「キムチラーメン」とアルファ米。ガンガンお湯が沸く。食べる、うまい!!生き返った!
小屋は木造で新しいようだ。なかなか広くて快適。やはり荷物をいっぱい広げられる。不思議の森の暗闇がおとずれだす。一緒にいる二人は静かなヤツだ。音楽を鳴らしているがRIKIが好きなジャズボーカル(昔聴いた「リッツ」のようなボーカル)なので全く気にならない。結局19:00頃に寝てしまう。明日は下るだけだし、ゆっくり寝てよう。オヤスミ。


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