●知的障害児(者)福祉の方向−続き●

 知的障害者の通勤寮やグループホームで、話を聞くと、「きょうははなしをきいてくれてありがとう」と言われる時があります。

 入所更生施設では、自分たちの思いを表現する機会がほとんどなかったのではないでしょうか。

 「今のくらしと施設はどちらがいいの。」と聞くと、「いまはいろいろとたいへんだけど、いまのほうがいい。」という返事が返ってきます。

 通勤寮に行ったときにこんなことがありました。
 「僕はこういう者です。」と寮生に名刺を出しました。すると寮生は「ぼくははたらいているけど、めいしはもってない。ぼくはこういうひとです。」と、定期券やらレンタルビデオ店かなんかの会員カードとか、いろいろ示され、私の名刺をうれしそうにしまいこみました。そして、ネクタイを見せてくれました(私よりたくさんもっていました)。
 通勤寮やグループホーム、生活支援事業によるサポートによって地域生活をしている障害者は生き生きしています。

 上記のように、自ら選んだ道は、大変だけれども自己実現がなされて充実しているのです。平成2年と平成7年に行われた基礎調査に現れた本人意思をいかに実現するかがまさに問われていると思います。

 しかしながら、施設建設に対する親の要望は強く、必要ないが今のうちに施設に入れておくという傾向も強いのです。
 また、施設では、社会に適応させるため一定レベルにまで引き上げるべく指導・訓練を行い、そこに至らない人は社会生活は無理だと決めつけ、いつまでも施設の中で処遇している状況にあります。

 しかしながら、施設でいつまでも指導・訓練していてもそう変わるものではありません。
それではということで、社会の中で生活する技術を身につけることを指導してみても、それはあくまでもシュミレーションであり、実際生活の場で役にたたなければ意味がないのです。

  実社会の中での失敗を繰り返しながらの生活、これをどうサポートしていくかが大事なのであって、机上の計算や、訓練、シュミレーションで身につくものには限界があります。

 それと、年金の額を積み上げることが本当に本人のためになっているのでしょうか。手をつなぐ親の会のH専務が「自分たちの亡き後が心配だと言って、通帳の額を積み上げたところで、本人は喜びません。一緒に旅行に行ったり有意義に使うほうがよっぽど本人は喜ぶんです。」と語っていたのが印象に残ります。

 国連が言っているように、障害(handicap)とは「社会的不利をこうむっている状態」なわけですから、それを取り除くことに主眼が置かれるべきです。つまり、本人ができないことはできないと正しく理解し、支援する者はできないことのお手伝いに徹し、本人の自己実現を図っていくことが重要でしょう。

(注)障害の3層構造
 インペアメント
  四肢、器官、臓器、精神機能等の医学的な変調「機能障害」
 ディスアビリティー
  機能障害の結果生じる身体動作や精神能力の低下である「能力低下」
 ハンディキャップ
  「能力低下」の結果生ずる社会生活上の不利である「社会的不利」

(注)国連の21世紀を視野に入れた障害者問題の長期戦略のテーマに「万人のための社会に向けて(Toward a Society for All) 」というテーマがあります。今ある社会に人が適応するのではなく、すべての人が適応できる社会をつくっていくべきであるという考え方です。「障害者対策に関する新長期計画」の副題である「全員参加の社会づくりをめざして」も、このテーマをもとに設定されています。

<まだ続く>


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