●知的障害児(者)福祉の方向−続きの続き●

  それでは、以下のような模擬訓練を施設入所中の方々に指導・訓練できるでしょうか。また、できたとして実際に地域での生活において応用できるでしょうか。知的障害者生活支援事業で行われているサポートです。

□支援の形態
┌・定期的な住居の巡回                             
│・職場訪問                                  
│・電話によるヘルプコール、電話による声かけ                  
│・来所                                    
└・必要に応じた対応                              

□支援の内容

(食事)
〇バランスのとれた食事の維持へのアドバイス(食生活から生活の乱れが始まる例が多い、偏食・過食から糖尿病になる例も多い)。
〇食事メニューのアドバイス(1週間単位の献立表・買い物表の用意。献立作成アドバイス)

(健康・医療)
〇病院の選定。病院のかかりかた。初診時の付き添い。常備薬の購入、薬局の利用。
〇健康保健の加入、継続
〇ストレスの解消(自立生活の葛藤から、胃潰瘍、アルコール依存になる例が多々ある)

(金銭管理)
〇金銭の計画的使用、金銭管理、預貯金管理
〇借金管理(無防備な障害者への信販会社、サラ金のローン地獄)
〇新興宗教の勧誘への対応(高額の入信料をとられそうになることが多々ある)
〇訪問販売への対応(高額商品の売りつけ)
〇財産管理
〇公共料金の支払い

(人間関係)
〇近隣、職場、家族の人間関係の調整

(各種文書手続等)
〇役所関係手続き(各種書類作成・申請、年金・手帳の更新、公営住宅入居、確定申告、住民票、印鑑登録、結婚、出産等)
〇日常生活上の手続き(電気、ガス、水道、電話、新聞等)
〇各種制度利用のアドバイス
〇選挙権の行使

(防火安全管理等)
〇災害発生に対する備え、避難訓練。
〇寒冷地における火気への安全上の配慮。
〇交通安全

(余暇・文化活動)
〇地域資源利用のアドバイス
〇施設行事参加の呼びかけ
〇高齢者への対応(健康・余暇・文化活動に対する支援。施設退所者に高年齢の自立が多い。)

(就労支援)
〇労働条件の改善(賃金、残業、労働時間、休暇、身分保障等)

(その他)
〇異性交際、結婚、夫婦生活、育児等へのアドバイス


本当に最後に

〇施設入所の意思決定はだれがしたのでしょうか。諦めの適応を、満足の適応と思ってはなりません。

〇よく話を聞いていただき、存在をごく自然に受け入れてくださる人が少ないのではないでしょうか。

〇権利擁護、それは、自らの権利を守る力が弱い人を、他の人が代わって守るという方式であり、欧米ではアドボカシー(直訳すると「代弁」)と呼ばれています。

○また、セルフ・アドボカシーとは、「自分の意思を主張したり、他人の申し出を断わる」スキルを身につけることによって、自分の権利を擁護することです。自分の意思や意見を表明すること、あるいは、相手の申し出を断わる、相手に対して「No」と主張することは、人権の侵害や、黙従・同調を防ぐ意味があります。また、ある事柄をしてくれないように要求することも大切です。

○特に重度の障害のある場合、Acquiescence(黙従、不本意な同調)という反応の傾向が強いと言われています。例えば、教師や施設職員のように日常支持する立場にある人、施設長や医師、学者のように権威がある人達の質問に対して、全部自動的に「Yes」と答えてしまうというものです。これらの反応は、往々にして彼等の意図とは別なものであり、本人の意思を尊重する上で注意が必要です。

○なお、人間の命の尊重という思想が特に重症心身障害児の分野で生まれ、これまでの障害者観に反省を迫り、障害に対する考えに大きなインパクトを与えました。歴史の流れは障害に対する見方、認識を変えてきました。また、国際障害者年や国連・障害者の十年を契機に、障害のある人は他の人と違った特別な集団と考えられるべきでなく、通常の人間的要求を満たすのに、特別な困難を持つ人達にすぎないという考えも広まりつつあります。これらの流れを確実とすることが大事でしょう。

○今後地域生活ということを考えますと、行政的措置だけでは障害のある本人のニーズを十分に満たすことには限界があり、回りの人々の理解が重要であり、地域の人々がどんな考え方をもち、主体的に地域をつくっていくか、いわゆる「地域ぐるみ」ということが重要な鍵となるでしょう。

○障害福祉が特定の人による仕事や関心ごとにならないことが大事であり、多様な内容と方法で本人のサポートを図ることが重要です。

○その際に、特に文化的視点を中心に据えることにも、意義があると考えられます。地域社会での文化的活動やスポーツ活動の積み上げは、本人の確実な自信の深まりとなって、さらには一般の人たちの理解の拡がりとつながり、社会の知的障害者に対する社会的価値観の変容へとつながり得ます。これまで知的障害者にとって文化とは、与えられる受動的なものでありましたが、能動的な文化やスポーツへの関わりの気運が高まってきているのは嬉しい限りです。


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