●知的障害児(者)福祉の方向●

 ノーマライゼーションの理念は、北欧諸国から欧米各国の障害者福祉の共通の理念として定着し、やがて全世界的な動向として、国際連合の場でとりあげられ、国際障害者年、国連障害者の十年に結実しました。
 このノーマライゼーションの理念を障害者福祉の基本とすることは、各国共通ですが、その進展の様相は、かなりの相違を示しています。これを大きく3つに類型化してみますと、

@施設を閉鎖する方向を選択する(地域福祉に施設を位置付けない)。
 知的障害者を地域から隔絶した場所に施設を設け、入所者に対するサービスのすべてを施設内で完結するという閉鎖的運営方式が一般化し、退所を考えない施設の規模は巨大化の一途をたどり、施設入所者に対する処遇は、人間性軽視の方向をたどります。たとえば、アメリカの施設には、定員 3,000名前後が一般的でした。バートン・ブラットの写真集「煉獄のクリスマス」(Christmas in Pargatory) に、入所者の当時の非人間的処遇が明確に写し出されています。
 この巨大施設への収容、人間性の軽視という過去の過誤から、施設を閉鎖して地域生活の政策を図る方向です。
  スウェーデン、カナダ、アメリカなど。

A施設は閉鎖しないで、施設の機能を活用する。
 スウェーデンとは対照的に、フィンランドのようにノーマライゼーション理念と原理を尊重しながら知的障害者福祉の援護システムの中に居住施設を位置づけ、機能を活用することにより、施設福祉形態と地域福祉形態の統合化の政策を図る方向です。
 知的障害者がどのような援護サービス形態を選択したにせよ生活の質を向上充実させる方向を選択するものです。
 フィンランド、オランダ、日本など。

B地域に根ざした福祉の展開。
 アジア諸国のように、知的障害者福祉が未発達であったことが、欧米で経験したような人間性軽視の過誤に陥らず、国際協力によりノーマライゼーションの原理を基本に知的障害者福祉を展開する方向です。
 マレーシア、フィリピンなど。

 日本の場合を考えてみますと、欧米と施設の背景が異なっています。
 欧米の収容保護主義が知的障害者から社会を守ろうとする発想も多分にあったのに対して、我が国は社会の圧迫から知的障害者を守ろうとする思想から発しています。戦前の処遇をみても、民間の善意による慈善的なものでありました。

 1950年代にデンマークに発祥したノーマライゼーションの理念は、知的障害者に対する人間性軽視を招いたプロテクショニズムへの厳しい批判の中で形成されてきたもので、ノーマライゼーションの反対に位置する言葉です。プロテクショニズムは、日本の場合、諸外国と性質は異っていました。ノーライゼーションの理念はどの国においても同一ですが、その進展の様相は、これまでの歴史的背景から相違を示しているのです。

 現在、諸外国では施設を閉鎖する傾向も見られますが、日本では施設の役割を重視しています。施設には、障害(児)者とかかわってきた百戦錬磨の人という資源があります。従来から行われてきている施設の専門的機能の地域開放・地域展開にあるよう、施設福祉も地域福祉としてとらえ、施設も地域社会の一員であり、地域社会の資源として地域から期待される存在でなければならないというとらえかたです。

 以上のように、日本の知的障害福祉を概観してみると、フィンランドと非常に似通った点が認められます。施設閉鎖を決定したスウェーデンとは異なったノーマライゼーションの展開を図っているわけです。

 しかしながら、本当に今の現状でよいのでしょうか。続きです


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