あなたは視たか
それにしても、現実にあなたは少年を視たか。少年の肩や手に触れ、そのニオイを嗅ぎ、喘を耳にし、少年の見つめる視線の先を追ってみたことがあるか。
わたしたちは、少年を評論的に語る日常をはなれ、少年をめぐる状況=事実について、自分自身の目で耳で、そして皮膚で知る努力をあまり払ってこなかったのではないか。
少年を無機的な数字で語ることはあっても、少年の体の温かさに驚いたことのないのが実情ではないか。
街中の少年を凝視しよう。メディアを介して知る前に、街中を漂流する少年たちの言動に揺すられ、方向感覚のない「他所者」として解釈不能なことを嘆くことの前に。彼らと饒舌な会話を交わすことより先に、その前や後ろに立ってまず自分の目で見てみようではないか。
漂流する少年たち 清永賢二 恒星社厚生閣 1997ー01