俳句カレンダー鑑賞 8月



新涼の母国に時計合せけり  有馬朗人


 第2句集『知命』所収。昭和57年刊。処女句集『母国』の序文を、師の山口青邨は「二兎を追って二兎を獲得するで あろう」という文で締めくくっている。
 米国において極めて高い評価を得、正規教授資格も得ていたにもかかわらず、原子物理学と俳句の二兎を追うために昭 和48年、43歳のとき敢然と帰国を決意した。そしてまだ学園紛争の余波が色濃く残る中、東大学生俳句会「原生林」 を指導しながら、現代俳句のあるべき姿を、国際性の観点を踏まえて真摯に追求した。
 帰国してからも学問的業績を慕って、世界中の研究所・大学が朗人を招聘した。
 平成14年までに、海外への出張は長期短期を合わせて150回近くを数えた。
 掲句は、シシリー島からの帰国時、国際俳句から日本の俳句へ、自らの季感をリセットする時の作。秋の初めの涼しさ に母国の季節を感じながら、時差を調整する。それは朗人にとって二兎を追う覚悟を確認する聖なる儀式のようなもので ある。(西村我尼吾)
 社団法人俳人協会 俳句文学館460号より

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