![]() |
|
掲句の季語である稗蒔は季題「水盤」の許にある。 水盤に水を含ませた綿などを敷き、稗の種を蒔いて発芽させ、その緑を観賞する。 緑は自然界の色であり、安らぎの色。目から涼しさをという日本古来のささやかな耐暑法で、稗蒔を売り歩いたという昔噺もある。 季語が俳句の心髄であるなら、「稗蒔」はこの句の中枢であり、動かしがたいものということになる。 毛描きとは、日本画で人物や動物、鳥獣の髪や毛を細い筆で描くこと。例えば葛飾北斎の描く人物の髪の一本一本は、一筋一筋という程の繊細さである。 絹布に――とあるので毛描きでなくては適わない。 自然鑽仰の現場主義者であると同時に美術や書にも造詣が深く、鑑賞の機会があればこまめに出かけて行く。そんな折、絹布に毛描きしている場面に遭遇し、授かったのであろう。 稗蒔、絹布、毛描きの言葉すべてに優雅さ、華奢があり、いかにもの涼感。 2001年刊行の第7句集『往馬』(俳人協会賞受賞)所収。平成12年作の句である。(藤 勢津子) |
|
稗蒔や絹布に毛描きしてをられ 茨木和生 |
|
社団法人俳人協会 俳句文学館459号より |