句集『霜華』所収。平成14年作。同時作に〈葭切や岸を離るる手漕ぎ舟〉がある。作者のふるさとは岐阜市鏡島。清流長良川に沿った自然豊かな町である。今も「小紅の渡し」と呼ばれる渡しが活躍している。 この頃作者は度々ふるさとを訪れている。当時長く病床にあったお母様を見舞われるためで、そんな中での帰省は胸中複雑なものがあったと推察される。 この日思い立って渡し舟に乗ったのも、そんな心を抑えかねてのことか。舟の揺れに身を委ねながら、様々なことを思われたことだろう。少年の昔に心を遊ばせながらも、お母様を案じる心は拭いきれるものではない。そんな時「閑古鳥」が鳴いた。 「閑古鳥」は「郭公」の古名。透き通ったその声は詩情に溢れ、聞く者の心に深くしみ入る。作者の感慨も一層深められたに違いない。季語が微妙な心象に迫って揺るぎない。 お母様がお亡くなりになったのは、それから2カ月を経ずしてのことである。(下里美恵子) |
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ふるさとの川渡るとき閑古鳥 栗田やすし |
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社団法人俳人協会 俳句文学館458号より |