句集『忘南』所収。 初夏、スーパーや八百屋の店頭に並ぶ蚕豆や豌豆のさみどりに思わず手が伸びる。 うすい塩味をほどこし、ふっくらと炊きあげた〈豆飯〉の淡白にして季節を感じさせる味は、日本人ならではのものであろう。 細見綾子の句に〈豆飯を喰ぶとき親子つながりて〉があるように、何故か肉親のつながりや、ある種の懐かしさを覚えるのである。 親が子を思い、子が親を慕う。まるでそこには小津安二郎の世界が展がるようである。 掲句は初めて身籠った作者が、両親に告げに行った頃の作と伺った。 処女句集『日差集』の帯に黒田杏子氏が書かれている。「日差子さんが坐るとふわっと座がなごむ。お日さまのようにゆたかな彼女に会うと、こころが満たされあたたかくなるー」 穏やかな作者の〈佳きこと〉を伝えてゆきたいという優しさは今も変ることはない。 その時の赤ちゃん、ご子息の現君は今や高校生である。(今野好江) |
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豆飯や佳きことすこしづつ伝へ 上田日差子 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館457号より |