この句に詠まれている景色に出会いたく、大和茶の産地である都祁(つげ)高原へと車を走らせた。あちこちに茶畑が見えてくる。丘の斜面を覆う茶の畝が空にまで至らんとしている。摘まれるのを待っているばかりの緑一面の柔らかげな茶畑。春のまぶしい光の中、きらきらしている。 峠が感動したのもこんな景だろう。美しい茶畑に見惚れた、作者の溢れんばかりの感動は「さざなみ」という言葉をひらめかせた。 高原の茶畑と湖のさざなみをぶっつける。大胆である。この思い切った比喩が句柄を大きくする。 「春光」と「さざなみ」と「茶畑」がお互いに生かしあって、一枚の絵が描かれる。言葉で描かれた絵。 峠の絵の構図は簡潔である。緑一面の茶畑。それだけである。印象明瞭である。春光が絵を輝かせる。柔らかい風が読者の頬を撫でる。 昭和34年作。第1句集『避暑散歩』所収。主観を内に秘めた客観写生という峠の作風は、そのころから一貫している。(村手圭子) |
社団法人俳人協会 俳句文学館456号より |