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春を迎えた喜びが句全体から伝わってくる。 「残雪」があるのだから、雪深い土地の熊笹である。雪の中で長い冬を過ごした人たちにとっての春の訪れの喜びは、温暖な地域に住む人の比ではない。それは植物に対しても同じで、雪の中から春を告げる草花が顔を見せ始めたり、咲き始めた時の感動もしかり。 この句の「弾き出でたる」という複合動詞は、雪を割って熊笹が現れたその勢いと、熊笹を見つけた喜びを表している。笹の葉のピンと張った形は雪を振り払って現れる草花の中でも、ひときわ印象的な景である。雪が消えて現れるのではなく、雪の落とし方もひっそりとではないところが「熊笹」に似つかわしく、まさに「弾き出でたる」という語が相応しい。 雪の中でも枯れずに、耐えてきた熊笹への称賛と挨拶の思い。その思いは切字「ぞ」によって、より明確になった。 初出は「澤」創刊号(平成12年4月号)。(椎野順子) |
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残雪を弾き出でたる熊笹ぞ 小澤 實 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館454号より |