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晩秋から初冬にかけて木の葉を藩とし、木を吹き枯らす強い風が凩であり、この風が吹き出すと世は、急に冬の様相に変わってきます。 日が短くなり、一日の仕事に区切りをつけて、作者が漸く帰途に着く頃はもうすっかり暮れています。仕事帰りの充実した心に、からだは少し軽くなったようで背中を風が押してきます。おや、凧か!寒さにブルッと衿をかき合わせ、何十年通い馴れた道を家へと帰ってゆくのでした。 ひとり住まいのひとりの部屋、凩もそれはそれで、心やさしい作者には何やら懐かしいものではなかったのでしょうか、「連れて帰るよ」の口語調が如実に物語っています。 ひとりの部屋に明かりが点き、凩が音を立てて過ぎてゆきます。 かずかずの路地ぐらしの名句を残される作者は、「春嶺」主宰として多忙な日を過ごされています。あるがままを諾う作者の人生観が読み取れる作品であります。 (小松初枝) |
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凩を連れて帰るよひとりの部屋 菖蒲あや |
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社団法人俳人協会 俳句文学館403号より |