俳句カレンダー鑑賞 10月



 切れ字の響く簡潔明瞭な一句であるが、その句意は深遠である。
 押し並べて生物に生と死があるように、星にも一生があるという。「星に老若あるはなし」の無駄のない的確な措辞には、人聞と同じように世代交替を繰り返す星の話に、輪廻転生を感ずる作者の心がある。
 一句の背景には、太平洋を遠望する大きく開かれた自宅の窓辺で、時折天体観測を楽しむ作者の姿があるが、その広大無辺な宇宙の星にも老若のあることを知ったことは、常に作者の心の在り処にある老いへの思いに触れ、直観的に「身にしむ」の感動を覚えたのであろう。感動は「身に人むや」の上五の切れとなって句を貫き、余情と季感の溢れる句柄の高い一句を形成し、老いを意識しつつも、受け継がれてゆく生命への作者の慈愛が強く感得される明るい一句で、大らかな人聞性に満ちている。
 揚出句の取り合せの妙は、季語をゆさぶり、耕しく詠むことを信条とする作者が、「身に入む」の季語を一歩すすめ、現代的に詠まれたことを裏付けている、といえよう。
(小林里子)
身に入むや星の老若あるはなし  蓬田紀枝子
 社団法人俳人協会 俳句文学館402号より

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