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秋も半ばになると、庭や公園などの植木の手入が目立つ。なかでも特に配意を必要とするのが松の手入。腕利きの職人が梯子を登って丁寧に鋏で松の姿を整えてゆく。 その業務に取りかかる一瞬を見落さずに捉えたのがこの句。「はじまりしばかりの音」とは河と感覚の溢れた表現なのか。鋏を入れはじめたときのきびきびした金属音が快く響くような臨場感を覚える。 「音」という鳴ると殆ど同時に消え完去るものの届き方が、刈りはじめの音と刈り進む音とでは違うのだと言う。冷徹で分析的な第三者の眼がそこにはある。そして、その音の向うには手入の済んだあとの松の姿と秋空のすがすがしさへの期待感が漂う。 作者は時として、「音」に対する独特の反応を見せるが、掲句のほかに、 〈松手入音のなき間も捗れる〉もあり、同様に感性の働きを思わせる。作者は数年前まで京都女子大学文学部教授であった。第二句集『水浴美人』所収。平成二年作。 (木村淳一郎) |
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はじまりしばかりの音に松手入 江川虹村 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館402号より |