俳句カレンダー鑑賞 3月



 荒々とした海浜か、海風のために傾いだ小松原の情景を想像してみたい。砂浜はゆるやかにうねり、人の足跡や風の息吹が残っている。この砂粒はどこからきたのだろうか、荒波に打ちあげられ、押しあげられたものかもしれない。あるいは命をもった二枚貝が虚貝になり、砕かれ、粒粒とした砂に混っているのかもしれない。  なかば砂に埋もれるようにして、浜防風の柔らかな緑がまるで天啓のように風に吹かれている。佇んでいると、吹きつける砂粒が足首にあたってむず痒いこともあるだろう。そんな過酷な砂地にしかと長い根を張る浜防風は、豊かな春のことぶれでもある。芹に似た若芽は、ほのかに紅く辛味と香りがあって美しい。  一句は小さな世界を詠んで、驚くほど簡潔で明快であり、はるかな時間を感じさせる。極小で無機質な砂粒と浜防風の命を重ねることで、大きな宇宙へと通底する世界が見えてくる。(鈴木多江子)
砂の上を砂粒はしる浜防風  星野恒彦
 社団法人俳人協会 俳句文学館395号より

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