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春は芽吹きの季節。厳しい冬の問固く閉じていた木の芽がいっせいにほぐれ、街中も里山も柔らかく美しい緑につつまれる。そのほぐれゆく木の芽に、のびやかに育ちゆく子供の生命力を重ね合わせて、作者は溢れ出る愛情を素直に詠いあげている。 実際、子供の成長からは目が離せない。寝て起きて、食べて遊んで、大人の目から見れば単調な似通った日々を夢中で過ごしながら、いつの間にか身体も心も成長している。 「一日のいつを子の育つ」は人の親たるもの万人に共通の感慨であり、普遍性を獲得した表現である。 文挾夫佐恵の代表作といえば、浪漫的なナルシシズムの魅力的な〈鰯雲美しき死を夜に誓ふ〉、清潔なエスプリの匂い立つ〈青林檎ひとつのまこと双掌もて〉、妖艶な幻想性に引きずり込まれそうな〈凌霄花のほたほたほたりほたえ死〉などが思い浮かぶ。だが、掲出句のように、次の世代への愛情溢れる生命賛歌も素晴らしい。 (仙田洋子) |
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木乃芽ほぐれ一日のいつを子の育つ 文挟夫佐恵 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館395号より |
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