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大峯あきらさんの好きな季節は早春だとお聞きしたことがあります。冷気のぴんとはりつめた春さきが、人柄に似つかわしい。しかも確かに二月には春の女神の予感があります。 掲出の句には観心寺という前書が添えられています。もちろん楠木正成の菩提寺ですが、この句は史実をうたうものではありません。もののふも日本を貫通するある精神をいうのでしょう。 「菩提寺とほき」というときに観心寺という寺が物理的に遠い、距離がはなれているということを述べているのではありません。1キロメートルと10キロメートルを比べて、10キロメートルのほうが遠いというのは日常の言葉の次元です。しかし詩人のいう遠さとは、もっと精神的な距離を意味しています。ここでは二月という季語が、単なる季節、月の呼称ではなく、「速さの思想」を受けて詩の言葉となりました。 この作品が昭和五十三年の作であることに今さらながら驚きます。詩としての完成の早きこと。初学の頃この作に出会えて幸いでした。 (田中裕明) |
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もののふの菩提寺とほき二月かな 大峯あきら |
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社団法人俳人協会 俳句文学館394号より |