山行記 氷と戯れる日々(2006年 1〜2月)


氷の世界:ひたすらアックスを振るう
無積雪期の山と岩は常に変わらずそこにある。春には木々は緑に萌え、草花の絨毯に覆われ、秋には木々が降り散らせた枯葉の絨毯に覆われる。けれども、道はそこにあり続け、岩もあり続ける。山のちょっとした気まぐれで少し様相が変わったとしても、毎年そこにあり続け迎え入れてくれる。
翻って、冬には山と氷は毎年違った様相を見せる。いや、毎日違った様相で出迎えてくれる。雪は降り積もり滑り落ちそして融け消える、分刻みで様相を変える。道はそこには無く腕と足でシュプールを刻み、シュプールは半時を待たずして奪い去られる事もある。氷は夜に太り昼には融けまた夜に凍りつく。刻々と変わり続けながら迎え入れそして弾き返す。

I.ダムに消え行く 吾妻渓谷 不動の滝 F1
高さ50mに達する、その名を体現したような立派な滝。数年後には付近一帯がダムに沈むことになっている。不動の滝自体は沈むことからは免れることができるだろうけれどもアプローチがほぼ不可能になるだろうし、凍らなくなるかもしれない、ひょっとしたら今回が最初で最後なのかもしれない。
氷は柔らかくアックスの入りは非常に良い。快適に登れるか?と期待したのも束の間、表面を融け流れる水が袖から首元からお構いなく侵入し冷たいことこの上ない。ロープも水浸しとなり引かれたロープは水しぶきを撒き散らし、貫通された氷からは滝が吹き出す。クライミング自体は気持ち良いのに、状況は不快この上ない、SNAFU!そんな一言が良く似合う1日だった。

II.美濃戸 角木場は小粒でぴりりと辛い
仲間は先に美濃戸でアイスを楽しんでいる。夕方の合流に向けて一人山道を辿る。たまには一人も良い、そういえば、この道を歩くのも初めてだ、4駆でないと凍りついたこの道は走れないのでいつも車で駆け抜ける道をゆっくり踏み締める。凍り付いていないところを探り、一歩一歩、木々を渡る風に耳を傾け、一人歩く。美濃戸では仲間と暖かい夕食が待っている。40分、長い道のりではない、久しぶりに山と語らった。翌日は仲間の車で一気に駆け下り角木場に転戦する。

氷柱、垂直以上にそそり立ち常に我々をはじき出そうとする。真正面から挑んでも勝てない。常に頭を使いながら体を動かし弱点を攻め続ける。時には上、時には左右にアックスを繰り出し、右に左に時には隣の氷柱にまで足を伸ばし上へ上へ攻め続ける。登りきった時そこにあるのは...何があるのかいつも探し続ける。

III.命が蘇りつつある 足尾渓谷 松木沢・黒沢
日本人なら誰もが知る、銅山の鉱毒と煙害で死の渓谷となった足尾渓谷、木々を奪われたためむき出しとなった山肌は時々癇癪を起こして岩を落とす。しかし、自然の力は逞しく植樹などによってゆっくりとだが蘇りつつある。そんな景色を眺めながらゆっくりと黒沢への道を辿る。
F1は巻いてパス、F2に取り掛かる。リードが二人攻撃をかける。私は右側ロープの二番手。終了点は左に取られたため、後続が左から登れるようにスクリューを外していかなければならない。
1本目のスクリュー、安定し右手のアックスを外しすばやく回収、直登、2本目のスクリュー、申し訳程度に3回転だけ入っている、これもすばやく回収。ここからは左に出て行かなければならないが、下から観察したとおり、被り気味で氷も薄いため苦労させられそうだ。当然、落ちれば大きく振られる事になり、左のロープに引っ掛ければ仲間も道連れにしてしまう、何が何でも落ちてはいけないのだ。いや、落ちなければ良いのだから直登して易しいところで左に出れば良い、慎重にアックスを打ち込み引っ掛けアイゼンを運びやや左に直登をかける。下から”左!”とコールが飛ぶ、”状況が悪い、上で出る”と返す。

F2
40mのこの滝でトップロープで遊ぶ。氷は硬く、鋭く磨いだアックスがよく刺さり快適なクライミングを楽しむ。

足を痛めた仲間の一人と共に辿る帰りの道で一頭の小鹿に出合った。その声は仲間を励ましてくれているように聞こえた。人間はこの渓谷を山を壊し、今もどこかで自然を破壊している。自然は人間を拒絶することもあるが概受け入れ、そして癒してくれる、感謝の念に耐えない。

IV.雲龍瀑は僕を寄せ付けない
昨シーズン、状態が悪く登れなかった雲龍瀑に再度出かけてみた。訳合ってゆっくりなので景色を愛でるゆとりがある。
雲龍瀑は今回も状態が悪かった。今日登るのは具合が悪い、またしても来年にお預け、友知らずに転戦する。困難には立ち向かう楽しさはあるが、危険を冒す事は避けなければならない。
しかし、何もせずに引き下がるのは悔しいので軽く数歩登ってみる。とりあえず一太刀打ち込める嬉しさとこれ以上登れない悔しさでアックスを振るう腕に力が入る。
友知らず左岸に数本トップロープを張り遊ぶ。寒さは厳しいが、氷はしっかりしていて快適だ。暫くテンションを掛けていなかった久しぶりにテンションを掛けてしまう、まだ駄目か、気を取り直して再攻撃成功。

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