山行記 錫杖前衛壁 注文の多い料理店(2006年10月)編


錫杖前衛壁 注文の多い料理店
今年の登攀の〆としてやってみよう!名が挙がったのが”錫杖前衛壁 注文の多い料理店”。支点も再整備されたとかでかなりの好評を博しているらしい。是非是非行ってみたい、なら行こう!

メンバー
大森さん
山想酔人さん
どこでも食事班S女史
どこでも撮影班Bさん
てっちゃん&なおこさん夫婦
通信連隊二等兵
通信連隊体長Rhyme大佐

オーダー
大森班:セカンド・てっちゃん&なおこさん夫婦、サード・二等兵
酔人班:セカンド・Sさん、Bさん、サード・おいら

Day−1:曇り
新穂高温泉手前の駐車場に集合。温泉に入り夕食&飲みといつもの流れで進む。明日朝早いんだよぉ...

the Day:晴れ
アプローチ
夜も明けぬ4時過ぎから登山口まで車で移動開始。
登山口の駐車場に車を止め、ヘッデンを頼りにアプローチ開始。一般道を歩いている最中に夜も明け、明るい中を沢沿いに一般道を外れる。錫杖前衛壁がはっきりと見える。前回よりも格段に速い速度で詰め上がる。いや、詰め上がれる。これも進歩なのだろう。
左方カンテの取り付きを脇に見ながら少し上が今回アタックする”注文の多い料理店”の取り付き。
取り付きから眺める壁は、屏風岩と似た気配を発している。臆する事は無い、出来ると信じれば出来るのだ。
1P:IV
見るからに嫌な感じのもろそうなフェース。
おいらは最終出発。みんなが登るのを観察しつつ待機。見るからに嫌な感じ。しかも出だしからIVとは...ラインは直登のあと右に曲がる。Bさんが右に曲がる位置のピンに差し掛かった時ふと不安...回収されたらおいらが登る時に右に引かれ続ける事になる...「Bさぁん!」何度か呼びかけるも反応無し。かなり高い位置にいるので聞こえないのか?うぅん、まいっか...やっぱり回収されてしまった(^^;

おいらスタート。やっぱり嫌な感じ。しかも右に引かれ続けるためちょっと不安定で、落ちるとかなり振られそう。IVだから落ちることは無いにしてもかなり不安。くだんにピンに差し掛かり右に折れ始めた辺りからやっと安定を取り戻し、1P終了。今回、唯一の安定した広いテラスに出る。
2P:V
本当に嫌な感じのフィンガークラック、トラバース。
てっちゃんは既に2P終了しており、なおこさんスタート。相変わらずの根性でフリーで抜ける。いやはや大したものだ。続いて二等兵。滑る滑る。張り張りで必死にクラックを超える。A0、てっちゃんが掛けていったらしいお助けスリングをアブミ代わりに越えていく。

続いて酔人さんリード。A0を掛けつつ越えていく。おいおい、マジかよ...支点工作完了後引き続きSさん。「体力使わないで行くから」の宣言通り、A0、セルフをフル活用している...てっちゃんアブミに乗り込むために姿勢を変えたところで、通信連隊二等兵から「張るぅ?」とシーバーでコール、「Sさぁん、張るぅ?」の問いに「張ってぇ」、シーバーに「張り張り宜しくぅ」、「りょうかい」でめでたくテンション。以後張り張りでSさんが越えていく。取り合えずはテラスに出ればなんとかなりそうな気配?追うようにBさん出発、既にセルフを取るためにデイジーは調整済みで、こちらもA0、セルフ、アブミと省エネ登攀。

二等兵からシーバーで「混んでるから出るの待って」、はい...状況が見えない長い待機1回目。
やっと、上からの「どうぞ!」のコールにスタート。出だしはクラックとスメアリングで何とかこなせるが、中間からは疲れが出てくる。潔くセルフを取って一休み。気を取り直して今度はA0で乗り込みアブミで一気にテラスに出る...なんとも頼りない外傾したテラス。てっちゃんスリング回収したくても手が届かない・・・不安定な姿勢で体を落としやっとの事でスリングに手が届き回収。壁に張り付くようにトラバースして2P終了点へ。二等兵と酔人さんは既に出発しているようだ。
このレッジは1人安定(Sさん)、1人半分安定(Bさん)、おいらはハンギング...セルフを取ろうと残置に手を伸ばしたその時...上から「うわ!」と云う声「ガキッ!!」と云う音と同時に何か黒い物体が背中を通過、と同時においらの背中に激突、壁と物体にサンドイッチにされる。とっさに、「なんで二等兵がここまで降ってくるんだ?フォロービレーヤーは何やってるんだ!」と疑問。
Bさんの「酔人さん大丈夫?」、「おう、大丈夫」の声に「酔人さんなの?」と気づく。大丈夫なんだ、と思いつつSさんの「痛い痛い手挟まれた、水かき挟まれた」の声にとっさにBさんと壁の間に体をねじ込み引き手側のロープを握る、兎に角、引き手が離れる訳にはいかないのだ。「違う、上引いて!手が取れない!!」、ってこの無理な体勢から上に手は出せない、「Bさん、上引いて!」と言うまでも無く、Sさんの苦悶の訴えに酔人さんの体勢を立て直す(逆さになっていたらしい)のを手伝いながら「カムでも外れたのか?」とロープの流れを追い、カムが無事な事を確認、Sさんの手元に目線を向けて「!」すぐにロープを引きテンションを抜きSさんの引き手は無事にバケツから開放された。
ここでやっと背中の物体がおいらの右に移動、体を壁から離せる、よっく見ると確かに酔人さん。と云うことはカムでぶら下がった?と上を見るとしっかりとカムが咬んでいた、大したものだ。

再度登り始める酔人さんの下に細引きでぶら下がる何か...引っ張り上げるとハンマー!いやぁ、おいらより上で止まっていたら、へたしたらこいつの直撃食らっていたかもねぇ、と思いつつフォルダーに入れてあげる。Sさんの手が心配だがここでビレーを変わることはできないので引き続きがんばってもらう。

酔人さんが登るのを見るとハングを越えた先は何も見えない。「なんだ、立てるじゃん!」の声にちょっと笑み。その後は順調にロープは伸びて行き支点工作完了後、セカンド2人が順次出発。2人とも省エネモードでA0で進む。
Bさんがハングを超えた所でSさんからアドバイスが入っている。なんか嫌な感じがする...ロープは何とか順調に伸びて行く。その間においらは安定を求めてレッジの左奥に移動し岩に腰掛ける。ハングの真下だから落石はまず当らないだろう。
終了点に着いたのだろうロープが一気に伸びる。「どうぞ!」を待つが来ない、逆に「混んでるからまだ出ないで!」、「はぁい...」

どれくらい待っただろうか?陽気に誘われてついうとうと...待てど暮らせどコールが無い...突然、「どうぞ!」のコール、やっとかい、とやおら腰を上げ「行きまぁす!」
3P:5.9
出だしはハングに向けて2手のスラブ、ハングは右にトラバースを掛けるがカムを回収していかなければならない。これがかなり大事だ。同一ルート下降のはずなので残置でも良いか先に確認はしてあったが、念の為にテンション掛けても良いから回収してくるようにとの指示。1個目はなんとか外したが直後にバランスを失いテンション。3個目のカムにかかったスリングにA0を掛けたいが届かない。壁はつるつるのスラブ。うぅん、どうしたものか...8mm60cmのスリングでマッシャーを掛け体をひきつけてからカムのスリングを取る、成功!カムのスリングで体を引き上げるとマッシャーがカラビナを潜り抜けていく、これも計算どおり!アブミにしてして乗り込んだ後でマッシャーのスリングを回収。

ここからは上手のクラックを利用して体を左に振りレイバック風で安定しカムを回収。レイバックを進めてハングの上に乗り込み一息つけるかと思いきや...ここからも嫌なクラックとスラブが続いている。上からSさんの右寄り左寄りとのアドバイスが有りかなり楽だ。が、上からの絶対指示が、「来ても入る余地が無いから途中の安定するところで待機ね!」...またかい。取り合えず、体を右に振り左に振りレイバック風、正対に持ち込みカチでずり上げる、で終了点の5m強下で安定できたのでここで待つことにする。ここから見る限り1人安定(ビレーヤー用)2人ハンギング状態。クラックにカムを入れて支点にしようかととも思ったが、回収したのはキャメロットの4番以上、そんな幅の広いクラックは無いので敢え無く断念。ま、傾斜もあるし両足しっかりしているから大丈夫、岩に少し寝そべるようにして負荷を減らし待機。10分強の待機の間に酔人さん出発、合わせておいらも終了点直下まで上がる。

今回のリードは順調に進み、程なくロープが一杯となりSさんスタート。入れ替わるように、おいらは2段上がり安定できるところに進み何とか立っていられそうな場所を確保。まずは右側にスラブをトラバース、一気にカンテを乗り越して行く。この間にバックロープを受け取るもかなりスパゲッティー状態、取り合えずは出られるように整え直す。案の定潜って出て行く必要があるようだ。
Bさんの出だしはおいらの乗っている棚(1人乗り)に乗ってからとなる。従って一度場所を譲らなければならないがかなり苦しい。壁を逆手で引き両足で突っ張って何とか場所を開けたところにBさんが上がってくるが、今度はトラバースになかなか出れない。左手と両足がかなり辛くなってくる...早く出てくれぇ・・・!左上にセットしてあるカムはおいらが回収することにしてBさんには早く出てもらう。トラバースが終わりカンテに乗り込んで見えなくなった後、Sさんからのアドバイスが聞こえている。
立っていても楽じゃないので棚に腰を下ろし悠然と構えることにした。座り込みと丁度ザックが穴にすっぽりと収まりなかなか快適。取り合えずは何もすることが無いのでロープを束ねなおす。絡んではいないのでスタートは速やかにできそうだ。Bさんの声は相変わらず聞こえておりロープも少しずつ出て行く。が、あるときから無音・・・ロープも出なくなる。え?そんな難しいのかい??しかし何も見えないのでどうなっているか全く分からない。ただ1人の時間が過ぎる。この時、確かにルートは難しかったのだが、Bさんが顎に小さな落石受けていたようだ。何もすることが無い。正面には焼岳が綺麗に見える。隣の壁を覗いてみるが誰もいない。上を見てもハングなので空だけ。静かなり全く静かなり。(どこかで読んだようなセリフだが・・・)
かなりの時間が経過し、やっとロープが少しずつ動き出す。「落!」とっさに身を乗り出し上を見る。7、8センチの石がはねてくるのが見えるがこっちには来なさそうだ。静かに見送り・・・やば、荷物に当るかも??・・・無事に2mほど離れたところにめり込んだ。
4P:V
どう聞いてもなおこさんの「解除!」だの「どうぞ!」の声に「?」と思いつつ、それに重なる大森さんの「右」だの「左」だののアドバイスにも「??」と思いつつ、折角温まった体がまた冷えるまで待ってやっと「どうぞ!」のコール。マッタリと動き出す。まずは左上にかかったカムを取りにスラブをよじり、元に戻り右へトラバース。カンテに手をかけながらさらに右に動き一気に足を挙げリッジ越え、クラックのスラブに出る。ここも身をよじりながら登る。ハンドはフィストに幅が広がった辺りでどうしても安定が取れない。「テンション!落ちる落ちるぅ!」と騒いでいたらテラスの上から大森さんがニヤニヤ笑って「なぁに言ってんだ」と一言。ちっ、登ってやるぜい!と一気に叩き込みをかける。あれ?なおこさん登ってると思ってたのになんで大森さんがそこにいる?レッジに出るとそこは一段降りながら右へトラバースし、右に凹角を登るらしい。右に出てはみたもののあまり良い感じの凹角では無いので左のフェースを見に戻るがやはり右の凹角の方が良さそう。クラックを正対で詰める、とても細い木の根を頼りにテラスに出る。テラスを左にトラバースしてフェースを上り終了点。テラスを邪魔な木を押し分け右にトラバースするとそこは左方カンテの5P終了点。タイムオーバーで5P以降はキャンセル(前に登っているから良いか)。どうやら、なおこさんリードでてっちゃんと二等兵を引き連れて5Pをやっているらしい、これで納得。

なおこさん班は下降でロープダウンの方向を失敗。リカバリーを二等兵経由で指示したいが無線でいくら呼んでも応答無し。ちょうど同じピッチに取り付いていたYCCのみなさんの協力で事無きを得る。
下降:2P+
さて、なおこさん班が下りてくる前に随時撤収、という事で下降開始。4P最後のテラスまで少し懸垂してから、一気の2P終了点まで懸垂、お次は取り付まで一気に。ロープはYCCの皆さんとも共用するために最後まで設置したままにしておく。
下山
YCCの皆さんの下降を待ちつつ、下山準備。あまりまったりしていると日が暮れてしまうので準備完了後さくさくと下山開始。一般道に合流したところで振り返ると夕日に輝く紅葉の錫杖前衛壁。あと15分のあたりでヘッデン点灯。下山も前回より明らかに速い。

電車組は電車に間に合いそうな時間。電車組はSさんバスでさっさと家路に。車組のてっちゃん・なおこさん夫妻、二等兵とおいらは夕食&温泉してから家路に。

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