山行記 一ノ倉衝立岩中央稜(2005年10月9〜10日)編


一ノ倉デビュー!

指導センタ<->テールリッジ<->一ノ倉沢衝立岩中央稜
とうとう一ノ倉デビューです。予定ではターゲットは中央カンテ。
悪天候に見舞われた3連休、一ノ倉はどのように迎えてくれるのか?

10月9日(曇り後雨)
朝4時半出発なので、4時までにロープウェー乗り場近くにあるはずのビジターセンターに着く様にちゃたろうで雨の関越を走ります。3時過ぎに旧のロープウェー乗り場まで来たもののビジターセンターなるものは見当たりません。付近を捜すものの分かりません。うろうろしていると隣に停まっていた車からMさんが降りてきて、やはりビジターセンターが見つからないとの事。大森さんからは、”ロープウェー乗り場の近くで看板が出てるからすぐに分かる”と言われていたのですが...天気は一時晴れ間も有ったのですがこの時点では曇り。

分からないままではいけないので、4時頃からもう一度探しに行き、新ロープウェー乗り場の6階ロビーで準備を始めていたドクターKを発見!急いで車を移動してみんなと合流し、共同装備分け等の最終準備を行います。

今回のメンバーは大森さん、ONさん、ドクターK、Mさん、A夫婦、Rhyma夫婦で、夫婦二組(アルパイン1年未満)は一ノ倉デビュー、他(プロ二人にベテラン二人)は全員経験者。珍道中になりそうです。

5時”ロープウェー乗り場”出発。指導センタの脇から大幅に車道をショートカットして以後は車道を一ノ倉沢出合まで一気に進みます。
出合で登攀装備装着。一ノ倉沢に乗り出します。6時。

折からの雨で増水していると思われる沢を石伝いに時には少し水に入りながら渡りつつ遡上していきます。滝を巻く前手でショートロープで確保開始。テールリッジ直前で懸垂(A婦人2回しりもち(^^) )で沢に下り、沢を渡り嫌なスラブ風の岩(フィックスあり)をトラバースしてテールリッジに取り付きます。

取り付きから一気に攀じ登り(フィックスあり)、嫌なブッシュを掻き分け、スラブ状のリッジに出ます。雨は降っていないのですが濡れていて非常に滑りやすいです。

フィックスも有るには有るのですが、足元が悪いので使っても意味が無さそう...四つん這いになって慎重に慎重に歩を進めます(A婦人1回スリップ...)。テールリッジってアプローチでありながら部分的に3級あるとの事で、一ノ倉が只者では無いことを思い知らせてくれます。

リッジの最後をフィックスで攀じ登るとまたブッシュの中へ。ブッシュ帯を攀じ登ると今回のターゲット”衝立岩”中央”稜”取り付きは目の前です。え?中央”カンテ”と間違っている?いえいえ、アプローチが余りにも悪すぎて時間がかかってしまっているので、時間の関係上中央稜に変更したのです(^^; 南稜をとも考えたのですが、先行グループが多く、取り付いてからも時間がかかりそうだったので敢えて衝立岩中央稜です。取り付き9時着。

中央稜マルチピッチ(9時20分〜11時40分)
まずはマルチピッチで中央稜をやります。パーティー分けは
 リード:メンバー
 大森班:Rhyme夫婦
 ドクターK班:Mさん
 ON班:A夫婦
の3パーティ-。上記順で取り付きます。山靴他のクライミングに不要な装備はデポです。

1P:出だしはちょっと悩みますが、以降はしばらく階段状ですいすい進みます。が、残り5手程下で核心に行き当たります。左は逆層、右は濡れていて滑る...右を行くしかないのですが、ムーブに悩みます。しかも、ぐっ!と左足を挙げた時岩に膝蹴りをかけてしまい打撲...ここを越えたら残り2手は楽勝で支点へ。

2P:出だしから左へのトラバース、完全に体は外に出ます。しかも2手目で一番使い易そうな上のホールドは浮いているので使えない...下手のホールドを使いトラバースした後はしばらく直上。

3P:足元が狭いので空中に出ながらビレー。出だしの右トラバースはちょっと嫌です。また、フェースも薄く剥がれた岩ばかりなので、折れたり割れたりしないことを祈りつつ攀じ登ります。引いても乗っても今にも折れそうです...フェースを登りきると支点です。
ここで、中央カンテに行くと言っていたガイドのMさんと会いました。余りにも嫌な感じだったので途中からトラバースして下りてきたそうです。

<- 3P途中から 下に2P終了点のドクターK

4P:フェースを一気に直上、して支点で確保。本当はこの先は直上のフェースか右の凹角が核心となるのですが、岩が嫌な状態なのでここで予定通り終了(世間一般では敗退というのかも知れませんが、取り付く時から決めていたので敢えて敗退とは言いたくないのです...)とします。

4Pを終了したところから 下に取り付きガ見えます ->


懸垂4P:4P取り付きまで下ります。追いついてきたドクターK班が入れ替わりに登っていきます。次の懸垂準備をしているとON班も追いついてきました。
懸垂3P+2P:一気に二つつなぎます。下り際に途中で止まって4P取り付きの写真を撮る余裕まで見せてしまいました。
懸垂1P:一気に下りて右に歩いて行くと取り付きです。お疲れ様でした!



中央稜1Pのみ(12時50分〜13時40分)
今日はまだ時間が有ります。なので昼食後、大森さん、ONさん以外で1Pだけ登ってみました。要はガイド無し、しかもAダンナとRhymeはほんちゃん初リードと云うで、独立自立と云う訳です。
パーティーは
 リード:フォロー
 Rhyme:かみさん
 Aダンナ:A婦人
 Mさん:ドクターK(さっきと入れ替わり)
です。

大森さんからギア一式をギヤラックごと借りて取り付きます。取り付きに0ピン目を取ります。
今までゲレンデでのリード経験は有ったのですが、ほんちゃんでのリードは初めて。戸惑いがたっぷりあります。
まず、ロープを2本引いていること。ピンがルートの流れ的に左右どちらにあるかで的確に左右分けなくてはなりません。次に、ピンの間隔が長いのです。
1ピン目:遠いのです。ゲレンデであれば2ピンは取っているかもしれない距離でやっと現れます。登っていったら右にピンがあったので一度右にかけたのですが、そこからは右にルートを取るので左に架け替えます。
2ピン目:ルートは右に出て行くので左に取ります。実はこれ、失敗だったのです。1−2ピン目は急激に右に行くのですが、取り付き−1ピン目と2−3ピン目は緩やかに右に行くのです。これにより右のロープが1−2ピン目の中間で左のロールをまたいでしまったのです。つまり、左ロープの流れが悪いことを意味するのです。
3ピン目:流れが悪くなった左ロープのせいで、2本引いて普段よりも重いところに余計な重さが加わります。途中、木にスリングがあり、これも使って良かったのですが(ONさんが掛けたものの回収忘れ)、使って良いとは思わなかったので飛ばしました。これにより核心部分にある3ピン目を掛ける時にランアウトの長さに恐れをなしてなかなか安定できず、しかもピンが古い&少しぐらつくので掛けた後も安心できません。これにおまけで、この時点でロープが2本とも膝に乗っているので身動きできません...外したいのですが核心で安定が足りない(フットーホールドが濡れていて安心できないのです)ので足を外すにも覚悟が必要で...もたもたしているとA婦人から”ガンバ!”のコール。これで踏ん切りがつき右、左とホールドから離しロープを落とします。これでやっと動けます。やっとのことで核心を越えます。
1Pの終了点’:支点到着です?このあいまいな表現”’”と”?”には訳があって...1Pの支点直下1mあたりにピンがあってご丁寧に残置スリングが複数かかっているので、ここを終了点と勘違いしてしまい...さっき登ったばかりなのに忘れてしまっている自分も間抜けなのですが...ヌンチャク掛けてセルフを取ってビレー解除、Piuをセットしてロープ引き上げ、Piuにセットしてフォロー開始。必死に引くのですが核心まではかみさんが登る方が速くてなかなか追いつきません。バットレスからの進歩としては、ロープを、ビレーしているロープの上にきちんと振り分けて置いていることでしょうか。ここで大森さんから指示、”下降はその上からだよ”。ここで初めて”’”であることに気付いたのです。参ったなぁ...と思いつつも参っている訳にはいかないので、かみさんにはフォローポイントを越えてもらってから正しい終了点でセルフを取ってもらい、ロープを肩に掛けて登ります。
お互いのロープを解除して、ロープを残置スリングに通してダブルエイトで結束、左右ロープを別々にまとめ直してからロープダウン。きれいに落ちます。
Rhymeから懸垂開始。セットに問題が無いことをRhymeが身をもって証明(?)します(^^; (自信が無いもので...これを書いていると云うことは問題が無かった証です)
問題・課題を抱えつつ、ほんちゃんでの初リードは終了です。いやぁ、緊張しました。ゲレンデだともし問題があっても病院に行くにもなんにしても町(文明)が近いのでなんとかなるのですが(問題を起こさないことが先決ですけど)、ほんちゃんだとそうは行きません。文明から孤立した状態ですから、何かあったらその重大性は増すわけですから。にしても、初リードが一ノ倉とは(^^)

全員無事に下りてきたので14時45分、撤収開始です。まだ雨は降っていません。

ブッシュ帯を下り(部分的に後ろ向きになって)、トラバースからスラブ状のリッジにかけては女性陣は懸垂、男はフィックスを使って下ります。取り付き部分は全員懸垂で下ります。次のイベントは往きに懸垂したところの登り返しです。先行班はすでに取り付いています。この時点で陽が落ちかかっています。回収したロープを肩に掛け嫌なスラブ風のトラバースにかかります(ショートロープの確保とフィックスへデイジーでセルフを取っています)。

3歩目辺りか?ロープで足元が見えないため、先に確認したフットホールドに目測で足を出し乗り込んだとたん...すっ、っと壁が上に流れました。”わぁ!”とっさに悲鳴が出て、お尻を壁に打ちつけ激痛が走ります。視界の隅でONさんが腰を落としロープを引くのとフィックスが伸びてくるのが見え、落下が停まります。まずはONさんにお礼を言い、状態を確認します。デイジーが左足に絡まって体が完全に横を向いています。落差は2m弱です。”体勢を直します”と声をかけ、デイジーの状態を確認します。幸いデイジーには大したテンションがかかっていないので体を起こし足から外し、体勢を直します。手近なホールドを探し、取り付きながら”ここから再スタートします”と声をかけトラバースを再開、なんとかトラバースを終えます。ONさんが追いついてきて”大丈夫か?”と声を掛けてくれます。ここで改めて体を確認すると左肘に擦り傷と打撲がある程度で大したことが無いことが分かりました。また、肩に掛けたロープも落ちずにちゃんと肩にかかっていました。”ロープで足元が見えなくて...”と言い訳しつつ再度お礼を言い、ロープを渡します。

がくっ、と自信がなくなってしまい、続いての沢渡りもONさんに先に行ってもらい後から着いて行きました...情け無い...

しかし、いつまでも自信喪失しているわけにはいきません。登り返しのビレー準備をしに登っていったONさんが準備を終えるまでに気力を回復させます。陽は殆ど落ちてます。かすかな明かりを頼りに3人、コンテで登り返します。

ここでヘッデン装着。ヘッデンを装着しながら、ONさんに”怖かったですぅ”とちょっと気が抜けた事を言ったところ、”しかし、まだまだ気を抜くなよぉ!”と励ましの言葉、再度気を引き締めます。ここからはRhyme先頭でブッシュ帯を攀じ下り、最後の急登を懸垂(初めての夜間懸垂)で下り沢に出ます。気がつくと雨が降り出しています。

ここから先、1箇所嫌なところがあったのでそこだけドクターKとONさんの間に張られたロープにオートブロックを掛けて進み、沢を渡り渡り出合に向かいます。
先に着いていた大森さんがヘッデンで位置を示し続けてくれているので進行方向を誤ることはありません。

19時20分、出合に到着。先行班と合流して休むまもなく”ビジターセンター”へ向かいます。本当はその日のうちに家に帰るつもりだったのですが運転する気力が無いので次の日のメンバーと共に1晩寝てから(寝る装備は、万が一悪天候だった場合、登攀を翌日にする事も予測されたので持って来てはいたのです)帰ることにします。

20時、”ビジターセンター”到着。ご自身クライマーであるMさんのお母様(付近を散歩するためにMさんと一緒に来られてました)の”遅いからビバークかと思ったわぁ”の言葉に迎えられて(本当はすごく心配されていたそうですが、大森さんと一緒なら大丈夫だろう、と信じていたそうですけど、最近、この程度でも遭難届を出す家族の人たちが急増してるんですよねぇ...)、8さん以外の翌日メンバーとも合流。みなさんお疲れ様でした!!

夜の宴会
靴を脱いで、寝る装備をちゃたろうから6階に上げます。夕食になるものが無かったのでコンビニに買出しついでに他の人の買出しも引き受け、コンビニまで買出しです。弁当2個におつまみを買ってきて宴会です。途中、8さんも合流です。
N婦人ダウン、ONさんダウン、順次ダウンしていき、最終的に22時半に全員寝ることにしました。

10月10日(曇り一時雨)
3時45起床、雨は降ってはいませんがガスがひどいです。4時半、出発するみんな(大森さん、ONさん、ドクターK(!)、8さん、Y女史、H女史の6名)を指導センターまで見送ります。
出発しても何処も寄るところが無いので(温泉に行きたかったのです)、かみさんとしばらく話していたらA夫婦が起きてきます。昨日の事をフラッシュバックしつつ、時間をつぶします。A夫婦は仕事の関係でこのまま帰るとの事で、Rhymeとかみさんはロープウェーで天神平を観光する事に。新しくなったロープウェーは大きくきれいで快適です。が、天神平に着いたら雨...何も見えません。朝食にカレーを食べて、しばらくぼぉ〜っとしてからロープウェーで下ります。
次は温泉!途中、谷川岳遭難者の慰霊碑に立ち寄り手を合わせ、湯テルメで汗を流し、大森さんに教えてもらった蕎麦屋で蕎麦を食べてから家路に着きます。

総じて
アルパインの要素の相当を一気に経験した感じです。
悪条件での判断、雨天の帰路、滑落で経験した安全確保の重要性・訓練された人の安全確保の的確さ、ほんちゃんでのリード、根性論・・・知識としては有っても実際に経験しなければ分からない事も多数あるわけで、体の芯から実感した1日です。
ところが、意外と疲れていなくて、バットレスの時は小屋に着いてもただただ疲れていただけで殆どのメンバーから笑顔は出なかったのですが、今回は笑顔で宴会と振り返っての話ができました。行動時間は殆ど変わらないのに、しかも悪天候に見舞われたにもかかわらず、です。少しずつですがみんな成長していると云うことでしょうか。

ルートのGPSデータ(カシミール3DのGPSファイル=GDB形式)

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