山行記 槍ヶ岳(2004年5月1〜5日)編


2004年、初の積雪期北アルプス・槍ヶ岳!

事前準備
事前準備と云うよりは、これがあったから今回のGW槍登山計画が出たといっても過言では無いかも知れませんが...
1.基本的な冬山用技術の取得
ICIさん主催の、谷川岳での冬山講習会に参加し、基本的な歩き方(トラバース時やキックステップ等)や雪崩発生ポイント通過時の注意、そして一番肝心な滑落停止の練習をしてきました。滑落停止は、Rhymeは前にも練習したことがあったので左右両方できるように練習しました。かみさんは止まるだけで必死のようでしたが、反復練習のおかげで体勢が取れれば大丈夫なところまで来たようです(実際に、槍沢の尻制動時に使っていました)。
滑落停止:ピッケルのヘッドをピックを小指側にして上から握り、そして反対の手で肩幅ちょいの辺りでシャフトを握ります。雪面を落ちてしまった場合、即座にうつぶせになり、ピッケルを胸の前に持ってきてピックを雪面に打ち込みます。その時、膝から上に曲げてつま先が雪面に着かないようにします(アイゼンの前爪等が引っかかると、そこを支点に吹き飛ばされるからです)。また肘と膝も雪面に押し付けるようにし全身でバランスを取りつつ制動もかけるようにします。
滑ったり落ちたりした場合、即座に上記の体勢を取ることが肝心、遅れれば遅れるほど勢いが付いてしまい止まれなくなります。
2.登山計画
今回の計画は
1日目:上高地→横尾→槍沢ロッジ
2日目:→大曲→槍沢→槍岳山荘←(ピストン)→槍ヶ岳穂先
3日目:天気の状況に応じて
    →中岳→天狗原→槍沢→大曲→槍沢ロッジ→横尾→上高地
    →槍沢→大曲→槍沢ロッジ→横尾→上高地
    のどちらか。
行動時間としては非常にゆったりとしたペースです。唯一長いのが3日目でこれは状況に応じては槍沢ロッジか横尾山荘で打ち切るのも手です。
3.用具他の買い付け
Rhymeのスパッツは20年程前のもの(よく今までもったなぁ、と云うのが実感)で、とうとう経年劣化による破れやほつれが許容範囲を超え(とっくに超えていると云う話も無きにしも非ず...)、アイゼンで引っ掛けた穴の補修箇所も増えてきたので、買い換えることにしました。
他には食料や、チタンテルモス(2004年モデル!これが出るのを待ってました)の買い足し(1人1本持つのが理想かと思い...)、消耗品各種の買い付けを行いました。
今回の目玉は、100円ショップで買ったカラー軍手(ゴアのをはめるほどでも無い時に重宝しました)と、ホエーブスを雪の上に置くための鍋敷き。地面の温度が低いと気化し難くなるので、これで断熱します。
用具の整備
再防水(レインウェア、冬用のオーバーヤッケ、オーバーズボン(Rhymeのは古くなったレインウェアの下)、スパッツ、手袋(ゴアの冬用)、ザックのザックカバーがかからない部分(ショルダーハーネス、ウェストベルト等)、靴)、ホエーブスの点検とガソリン補給等々。やり始めるときりがありません。
4.情報収集
積雪期の北アルプスは初めてなので、情報収集は十分に行わなければなりません。最近はインターネットの普及で多数の情報が得られますが、一番役に立つのは生の声。と云う事で、ICIさんに買出しに行った際に、おなじみの店員さんにいろいろとお話を聞いてきました。ビーコンはいるかな?と聞いたところ、”この時期、雪崩はまず無いし、もしおきたら雪ではなく氷塊が降ってくるのでゾンデ棒も刺さらないわけで”と云う事で、殆ど意味の無い代物になりそうなので買いませんでした。そもそも、使いこなす為の訓練をしていないわけで、知識だけでは使いこなせないだろうし...
ネット関連で得られる情報では、
 南岳のHP:掲示板があるので積雪量や雪庇の情報をいただきました(多謝:南岳の管理人様)
 槍岳山荘:ライブカメラと気象状況が役に立ちます。
 北アルプス山小屋ネットワーク:山小屋通信のコメントと写真で状況把握。
が信頼できるものかと思います。
書籍に関しては、山渓のバックナンバーと5月号を参考にしましたが、これは昨年以前の情報を基にしているので基本情報としてしか使えません。特に、今年は例年よりも気温が高かったようなので雪質が大分違うようでした。
タクシーの手配
松本駅から上高地までのタクシーは、昨年8月にお世話になった方に来てもらえるよう手配を整えておきました。上高地へ向かう途中でも最新の生情報を得られる事にもなります。

5月1日:出発ぅ!!
新宿発:臨時快速ムーンライト信州81号 23:54
スーパーあずさだと2時間半で行く道のりを、夜行快速で4時間半かけてのんびりと辿ります。国鉄時代の特急車両183系で、国鉄カラーのままです。ちょっと懐かしさも感じます。もともと、急行アルプスだったものが快速(しかも臨時)に格下げ(?)されたものらしいです。
乗客の殆どが山行きの格好で明日の山行に備えてお休みモードです。が、後ろの席の中年4人組が1時ころまで宴会をやっていて...まぁ、それほど煩くは無かったのですが、缶をつぶす音が非常に気に障りこれだけは止めて欲しいとお願いしました。口ではえらそうな事を言っていた割には存外、常識が無いものです。
うつらうつらとしながら4時間半が経過...

5月2日:上高地→槍沢ロッジ
松本 4:32
タクシーの中で、今回のコース説明と同時にアドバイスをいただきました。地元の山好きの方から、”その準備と計画なら大丈夫だね”と言ってもらえると安心できます。いろいろと面白い話、役に立つ話を聞かせてもらいながら1時間の道のりを辿ります。途中、朝食の買出しのために、コンビニによってもらいました。車内で食べるにはちょっと早いですけど。

大正池 5:50
大正池に差し掛かった時、きれいな逆さ穗高連峰になっているでは無いですか!タクシーを止めてもらって写真を撮ってしまいました。バスではできない芸当ですね。
(大正池からの穂高連峰1600X1200→)

バスターミナル 6:15
帰りも迎えに来てもらう約束をして、さて本番ですぞ!とその前に作成してきた登山計画書を提出します。係りの方から”山岳保険は入ってますか?”と聞かれたので、勿論”Yes”と答えました(東京都岳連の共済に加入しています)。
ICIさんでもらった手提げ袋(折りたたんでひっくり返すとコンパクトにしまえるもので、今回は結構多くの人が持っているのを見かけました)に入れてきたオーバーヤッケを着込んで、アイゼンをザックの外に括り付けて(1日目は使わないはずなのですが、何かあったら直ぐに使えるよう念のため)、ピッケルもザックにくくりつけてと。

食事 −7:10
出発前に、コンビニで買った朝ごはんで腹ごしらえをしておきます。
河童橋 −7:14
やっと本番スタート!天気は絶好!まだ見えない槍に向かって”待ってろよ!”と心の中で宣言、まばらな観光客を尻目に河童橋を出発です。
(河童橋からの穂高連峰1600X1200→)

明神小屋 7:51−8:03
特に用は無いので軽く休憩だけにします。

徳沢園 8:45−9:12
ちょっと長めに休憩。冷たい缶コーヒーが喉に沁みます。
この時点で気温は20度位です(^^ゞ
横尾山荘 10:10−10:52
結構混んでます、いや、夏と同じくらい混んでます。げげ!こんなに混んでいるのかい、とちょっと危機感を覚えます。小屋が混んで入れなかったらどうしよう...幕営装備は念の為に持ってはいますが、非常用にしか考えていない...と云うのはオーバーですね。
軽く食事を入れます。ここで槍方面と涸沢方面に分かれるのですが、殆どが涸沢方面。ちょっと安心。少しは静かな山が楽しめそうです。

一本入れる 11:24−11:35
梓川の河原でちょっと休みます。というのは、暑いから(とっくに20度を超えています)で、オーバーヤッケはとっくに脱ぎ、ここでフリースも脱ぎます。ついでに、梓川の水で腕を冷やし、少し嗽をします。

槍見沢 11:46−11:52
槍がきれいに見えます。いつもどおり写真に納めます。しかし、暑いです。
(槍見沢からの槍ヶ岳→)

一の俣 12:02
二の俣(吊橋) 12:10−12:37
あまりの暑さに大休憩。気温27度、夏かい!!
かみさんは暑さを避ける為に木陰で休憩、私は河原で水遊び。梓川の水は肌を突き刺すように冷たいです。
槍沢ロッジ 13:08
ほぼ予定通りに槍沢ロッジ到着。本日の宿泊は100人を越える見込みとの事で混雑しそうです(夕食は2回に分かれるうちの早い方なれど、朝食は早いもの順だそうです)。槍沢ロッジですが、山小屋の例に漏れず棚型のベッドなのですが、客層による棚分けをしているようで、夫婦(ペア、カップル含む)、単独(男女別)、団体で分けています。これだと女性の単独でも安心ですね。
まだ、屋根に雪が残ったままだからなのか、土間にはつっかえ棒がしてあります、いえ、部屋の中やトイレまで。通行に少し不便をきたしますが、これも積雪期の面白みと云うもの、楽しんでしまいます。
昼食他
受付を済ませてから昼食です。ホエーブスでお湯を沸かしてラーメンを作ります。今回のラーメンは、普通に売っているラーメンではなく、非常に小さく圧縮されたものです(とは言ってもスーパーで売っていたものなのですが...)。体積比で半分以下、そして丈夫(?)で割れにくのでパッキングも楽なのです。
ホエーブスを使っていたら、懐かしさ&珍しさで何人かの方から声を掛けられました。火力は最高なんです。カートリッジタイプは外気温と地面の温度に影響されやすいので、冬場はなかなか火力が出し切れないようです

お風呂 15:00
槍沢ロッジにはお風呂があります。温めでしたが、汗を流せるのはうれしいです。
夕食 18:00−18:30
美味しくいただき、おかわりもしました。食後、土間でだるまストーブに当りました。
(←槍沢ロッジの夕食)
(雰囲気のある土間↓)
就寝 20:00
天気が悪くなってきました。前日の天気予報では、崩れるのは明日の夕方以降だったはずなのですが...天気がもつことを祈りつつ就寝です。


が、明け方(4時頃)、早立ちの人の煩い事、非常識な事...声のトーンを落とさないはヘッデンを前に向けたままだわ...カーテン越しとはいえ、最近の性能の良いヘッデンで照らされると眩しいです。3回目に照らされて時にはさすがに”眩しい!ヘッデン消せ!”と言ってしまいました。が、外からは”ヘッデン??”、”ヘッドランプだよ、下に向けるのよ”との声が聞こえました。だったら先に教えとけよぉ...叩き起こされる身にもなってよぉ。

5月3日:槍沢ロッジ→槍岳山荘
起床 5:30
高山病は大丈夫そうです。ちょっと安心。
食事が終わったら直ぐに出発できるよう、パッキングを済ませておきます。
天気は曇り、午後からは完全に崩れそう...

朝食 6:00−6:30
早い者勝ちの朝食、おかわりもしてしっかり腹ごしらえ。
(槍沢ロッジの朝食→)

出発 6:54
小屋の中では靴を履いてスパッツまで付けます。アイゼンは絶対に外です。
ここでの困ったサン。先に書いたとおり、つっかえ棒があるためたたきが狭くなっていて3、4人しか座れません。そして、みんな出発のタイミングは似ているわけですから100人程度が通るわけで、さっささっさと空けないと大渋滞です。多くの人は、たたきでは靴を引っ掛けるかサンダルに履き替えるだけにして、土間のテーブル(10人以上で使える大きなテーブルと、勿論、椅子もあります)の所できちんと靴を履いてスパッツを付けているのですが...いるんですよね、たたきでスパッツまで付けようととする人。しかも仲良く並んで...待ってても終わりそうに無いので、”土間に出てからにしてください”と言ってみたものの、”はいはい”と返事するだけでどく気配が無い(こう云う人に限って何度もやり直すは、スパッツの付け方も分かっていないはで...)ので真ん中を強行突破しました。それでもまだスパッツを付けようとしているので”こっちに来てからやりなさいよ”とガツンと言ってやりましたです、言いたくは無かったのですが、後ろで待っている人がいっぱいいましたから。
この時期に来るのだからそれなりの技術・知識を持った人ばかりだと思っていたのですが、そうでは無いのですね。
外でアイゼンを履きます。襷掛けにしたスリングにぶら下げたカラビナにピッケルのハンドバンドを引っ掛けて、ピッケルをカラビナに突き刺して(こんな表現で分かるでしょうか?)、疑似肩掛け式ピッケルバンドの出来上がり!
じゃぁ出発!
アイゼンはいらない感じの雪面ですが、念のために履いておきます。ピッケルはまだまだ出番無しです。

赤沢岩小屋 7:18
どれが岩小屋だったんだろう...と云うくらいあっさり通過。

槍沢天場 7:42−7:45
結構多くの方が幕営しています。中には、山スキーのベースにしている方もいたようです。
ここからは、沢の真ん中に出るような感じでトレースが付いています。夏道は沢沿いに行くのですが、雪がしっかり積もっている間は直線で結んだほうが楽になります。が、あくまで雪がしっかり積もっている時だけで、薄くなったら禁止です、踏み抜いて梓川に落ちて流されてしまいます、しかも雪渓の下を...

水俣乗越分岐付近 8:14
沢の中心側にいるので、付近を通ったとしか言えません。雪崩があったと思われる跡が残っています。

大曲付近 8:33
ここも、付近を通過している事は認識できるのですが...

SMてぃさんと遭遇 8:20
槍沢ロッジでお隣さんだった、テレマーカーのSMてぃさん組と再開。ちょっとお話をして、お二人が滑っていくところを見送りました。良いなぁ、Rhymeもテレマークしたい...今シーズンこそは!と一体いつから思っている(だけ)事か...
我々はここからが正念場で、すこしずつ急な登りになっていきます。
途中、立ち休みをしていると下の方で落石の音が...大曲の上部の様です。は!とっさに叫びましたです、”ラク!”、下の方からも追随するように声が掛かったので、恐らく現地まで届いたでしょう。幸い、ルートまでは届かなかった様ですが、これが翌日の私の一風変わった行動の一端となります。
その後は、団体さんと抜き抜かれつしながら槍沢を登って行きます。時々、尻制動(尻セード)で降りてくる人たちもいます。Rhymeたちも、明日は尻制動で楽々下山だぁ!と期待に胸膨らみます。

天狗原への分岐付近 9:15
天気がどんどん崩れてきます。ここも付近と云うだけしか分かりません。

水場付近 9:51
とうとう降ってきました、小雨です、雪ではありません。参ったなぁ、オーバーヤッケは雪には強くても雨には弱いんだけど...

グリーンバンド付近 10:25−10:42
GPSによるとグリーンバンド付近らしいです。夏コースだと登り側だと右から一気に左に出て槍がどどぉん!と見えるようになる所なのですが、今回は丁度その真ん中を通っています。また、雨で何も見えません。大きな岩の陰で風を防ぎながらチョコレートを食べて栄養補給です。
(グリーンバンド付近→)

坊主岩小屋らしきもの付近 11:00
夏コースより右寄りを通る為、岩小屋らしきものが小雨の中ぼんやり見える程度ですが、付近を通過しました。
ここでも尻制動で下っている中高年の団体がいたのですが、最後のおばさん、スタートできません。下からは”早くおいでぇ”と声はしているのですが...で、ふっと見ると、おばさん、ピッケルのスピッツェ(石突)を前にしてシャフトを握っているではないですか(さすがにピックは上を向いていますが)。
これはあらゆる面で危険です。まず、いざという時に滑落停止体勢が取れない。そして、スピッツェが雪面に刺さった場合、吹き飛びます(後日話をする機会があった有名なクライマーの方も、この話をしたところ即座に”吹き飛ぶよ”と仰ってました。他にもおっしゃっていた事があるのですが、ご迷惑をかけるかも知れないので省きます)。運良く吹き飛ばなくても手首をくじくか下手すれば骨折、肩の脱臼など数え上げればきりが無いほどです。
なので、お節介焼きなRhymeはおばさんに、ピッケルの持ち方が悪い旨指摘をしたところ、”どう持つの?”と。先の”滑落停止”の持ち方を教えて、シャフトを持っている側の脇下に後ろ向けピッケルを持ってきて、スピッツェを雪面に当ててコントロールするんですよ、とRhyme。そしたら極めつけ、”どうやって止まるの?”とおばさん。え?唖然としましたが、”スピッツェを押し込むか、それでも止まらなかったら滑落停止体勢を取るの”と滑落停止風にピッケルを胸元に持ってきて見せてもみました。そしたらおばさんは”ぽかぁん”としてるのです。どうやら滑落停止を知らないようなのです。”誰だよ、こんな人連れてきたの”と思いつつ、最後の停止手段”後ろに倒れたらザックが雪にめり込んで止まるから”と教えてあげました。足を上げていなければならない(滑落停止時に足を上げているのと同じ理由)事も知らないでしょうから、これも教えました。
その後どうなったかは分かりませんが、リーダーの方の資質を疑います。連れて来れば良い、だけじゃ駄目なはずです。準備段階からの安全確保、場合によっては事前トレーニング等が必要なはず。私も完璧であるとは言えないですが、安全に関しては常に意識しているつもりです。今回の山行は、Rhyme夫婦にとって初の積雪期3000mオーバーです。未知の領域ですから準備段階での安全確保には十分に留意したつもりですし(前段の準備、調査)、槍を選んだのも、夏に二人で2回、私自身では多分6回目と北アルプスの中でも一番回数が多いところで、コースを知っているからです(加藤文太郎氏も、無積雪期に調査をした上で積雪期に行くべきであると仰っています)。私なんかよりも、もっと経験のある方などから見たら”まだまだ甘い”点もあるでしょう。また、他の考えの方もいるかと思いますが、”可能な限り最大限、安全に留意しなければならない”事だけは賛同いただけると思います。
正直、この時期でもこんな人たちがいるのか、と少しがっかりしました(と言いながら、実は、翌日、私の親が非常識なことをしてくれて恥ずかしい思いをしました...)。

殺生分岐付近 11:37
殺生ヒュッテは小雨の中、本当にぼんやりと影のように見えるだけです。いや、音からするとあれが殺生ヒュッテなのでしょう。
ここから最後の正念場の急登です。夏は九十九折に行くところも直登です。ピッケルを刺し込み、引き付けるように登ります。上を見る余裕はありませんが、トレース(細い竹の棒に赤い布切れが結び付けてあるので、それに沿って登ります)を辿るために必死に上を見ます。気が付くと前の人にぶつかりそうにもなります。夏とは相当な違いです。

槍岳山荘 12:42
やっと着きました、槍岳山荘。雨が降っているので直ぐにでも入りたいのですが、まずアイゼンを脱いで(周りから、外してからじゃないとだめかなぁ、当然だよ、と云う声も聞こえましたが)、ザック、オーバーヤッケ・ズボンの水滴を可能な限り落としてから入ります。入り口は2重扉で暖房が逃げないようにしています(雪国では一般家庭でもありますね)。これはちゃんと両方とも閉めましょうね。受付をして部屋に入るまでの間に、一体どれほどたくさんの人が内扉を閉めなかったことか...中には、内扉が開いているのに外扉も開けて話し込んでいる非常識な人もいました。最後には怒鳴りつけてしまいましたが...私も、ひょっとするとまずいことをしている事があるかも知れませんが、それでもあまりの非常識さには目を覆いたくなるものがあります。
脱線してしまいましたが、受付を済ませます。早く着いたからなのか、棚型のベッドではなく、個室タイプの部屋でした。ちょっとうれしい。8畳に8人なので広々と云う訳にはいきませんが布団の端を重ねるようにして敷けば良いわけで。また荷物は棚の上に置けば外に出さずに済むこともうれしかったです。
部屋に入って直ぐに、濡れたものを乾燥室に干しにいきました。レインウェアはダメよ、と書いていたのですが、混んでいなかった為、ちょっとずるをしてオーバーヤッケとオーバーズボンも干してしまいました...ごめんなさい、乾いたら直ぐに取り込みます...

昼食 13:30
外の雨はいよいよ本格的な風雨(とは言っても、4月中の風速15mには及ばず10m程度だったようですが)になって来ました。
槍の穂先は断念です。じゃぁ、ご飯にしようか、と思いましたが自炊室兼喫茶店(?)は満員でホエーブスを使うのはちょっと気が引けたので潔くカレーライスをいただくことにしました。ボリューム満点!お勧めです。
ちなみに、お水は、夏と違って洗面所に置いてあるでっかいポリタンのものを使います。

夕食 18:00−18:30
談話室などでまったり過ごし、ビデオを観たり、天気が悪いので明日の予定を検討し直したりしたりしているうちに夕食の時間です。食堂の入り口階段の前に”本日のメニュー”が貼ってありました。こんなの有ったっけ?と思いつつ食堂に下りて行き、さて食事と思ったら...お皿が去年夏の金属プレートから普通のお皿に変わっているでは無いですか。山小屋も常に進化ですね(良いのか悪いのかは分かりませんが、年々贅沢になっている気がします)。
人数を数えると100人弱。昨日の槍沢ロッジでの百数十名は何所に行ったのか?横尾から来た人もいたのでは??あれぇ??
毎回の事ながら、槍岳山荘では”わさびふりかけ”のお陰でご飯が進みます。おかず無しで2杯はいけてしまいます。おかずでもう2杯、よって、最後のお焼き(野沢菜)を食べる頃にはお腹いっぱいです、ご馳走様!

就寝 20:00
夜中、トイレに起きたところ...暴風雨で窓がびりびり言っています。明日が気がかりです。

5月4日:槍岳山荘→上高地
明け方1 4時頃
やっぱり出てしまった高山病による頭痛。頭痛薬を飲んで寝なおします。食べる酸素って効かないのかなぁ...いや、去年よりましな感じもする。

明け方2 5:30頃(上記の恥ずかしい話)
小屋の方が部屋に私を呼びに来ました。曰く、父が天気が悪いことを心配して電話をしてきて”無理をしないように伝言して欲しい”との事。この会話で、まだ寝てた方も起こしてしまい、非常に申し訳ない...
まだ寝れそうなのでもう少し寝ることにした。軽い頭痛が残っている...

起床 6:10
頭痛は去ったものの、なんとなくお腹の調子が...トイレに行ったら気分が悪くなってしまった...

朝食 6:30−7:00
食堂に向かう途中で受付の前を通ったら小屋の方に呼び止められました。再度、父から電話があり、”掛けなおすようにと”伝言があったとの事。ここまできたらさすがに私も切れる。恥ずかしい思いをさせないで欲しい、と。ちびっこの時から積んで来た私の裏付けの無いキャリア(その基礎は親からのもの)が許さない。とは言いつつ、小屋の方には”分かりました、度々で迷惑を掛けます”と、多分、顔が引きつっていただろうなぁ...とは云え、まずは食事をしなければ。
朝ごはんにおいしそうな鮭(お腹の脂が乗ったところ...)が有ったのですが、かみさんに譲ってしまいました。しかし、何も食べないわけにもいかないので食べられそうなものだけはなんとか食べました。
食事中、館内放送が有り、曰く”昨日からの雨で、飛騨沢は増水しているので十分に注意すること、また槍沢は雪が薄くなっているので真ん中に出て踏み抜かないように”との事。いやぁ、参りました...
お湯を150円/1lで譲ってもらい、部屋に戻る際に受付の方からもうちょっと詳しい状況を聞いたところ、夏道に近寄るように行けば良い、との事。
で、電話ですが、しましたですよ、いい加減にしてくれと。同室の方を起こしてしまったこと、忙しい時間帯に小屋の方の手を煩わせた事、判断は自分たちしかできない(自己判断・自己責任)のだし、私に基礎を教えたのは誰でもない、あなた(達)でしょう、と。馬鹿な事はするつもりは無いし、準備もしてきている、昨今のなんちゃって遭難もする気は無いので自力下山できそうに無ければ動く気は無いし、今の天気と予想される天気なら十分に行動できる、と。小屋の方からも情報は貰っていて自分で判断する、と。”天狗原に行くとか言ってたから”って、”この雨に中、誰が行くかいな”と...
しかし、天気予報などではどのように報道されてたんでしょう?嵐でも来る様な感じだったのでしょうか?ラジオを持ってはいたのですが、小屋の天気図を優先してしまって聞いていませんでした。

出発 7:34
他の方からは少し出遅れましたが、雨の中での下山です。
やっぱりいました、小屋の中でアイゼンを履く人。放っておいたら小屋の方に注意されていました。
昨日よりもトレースを示すポールが左に寄っているようです。

尻制動準備 7:46
さて、ここまら暫くは尻制動で一気に降りる予定なのですが...ここまで、いろいろと爆弾発言をしておきながら、かみさんは初めての尻制動なのです。なので、教えなければなりません。
前日、雪質を確かめてみたところ速度は出そうに無い事、また雨のせいでもっと雪質が悪くなってもっとスピードが出なくなっていそうな事、谷川岳での訓練で滑り降りる感覚は知っている事、制動もできる事、いざとなればザックで止まる方法も知っている事から大丈夫と判断しました。本当は、谷川岳で教えておけば良かったと反省です。
まずはトレースを外して、暴走しても先を降りている人に当らないようにします。そして、Rhymeがどっかと腰を下ろし、基本姿勢を教えて短距離を降りてみせます。確かにスピードは出ない...初めてのかみさんには良いことなのですが、時間短縮には悪い事で...ま、良いか、楽しめれば。
次はかみさんの番。暴走しても止められるように下で見守ります。止める時はアイゼンとピッケルで刺されないように上手被さらなければなりません。しかしながらそんな心配は不要でした。スピードが全然出ていないし、それにも関わらず、ちゃんと滑落制動で止まっているし、ってそんな速度で止まるなよ、時間を稼ぐどころか逆に時間かかってしまうよ...
とは言いつつ、なんのかんのと言いながら何回か滑るとコツを掴んだ様で、グリーンバンドまで一気に下りました。

殺生分岐付近 7:59
坊主岩小屋らしきもの付近 8:05
グリーンバンド付近 8:09
ここまでは尻制動とアイゼン効かしまくり一気降下であっと言う間です。2時間掛けて登ったのに30分で降りてきました。
ここからは尻制動無しで、アイゼンを効かした一気降下です。

水場付近 8:12
天狗原分岐付近 8:22
ここから、意識的に左寄り(夏道側)にコースを取ります。踏み抜いて落ちたくないですから...とほんの少しだけ恐怖心が心の片隅に芽生えまてす。こんな気持ちは初めてです。

大曲付近 8:36
雪崩の跡風の雪、昨日の落石or雪崩から、”さっさとここを通り抜けたい”と云う思いが、知らず知らず歩を早めて行きます。かみさんがちゃんと付いて来ているかを確認する余裕と、休憩を取るか?と聞く余裕はまだあるのですが、後でかみさんに聞くと結構いっぱいいっぱいだったようです。これは後日への反省です。先のクライマーの方も、かみさんに”ただついていくのでは無く、周りを意識して、自分ひとりでも帰れる様、またRhymeに対して自分の意見をちゃんと言えるようにしなければならない”と仰っていました。これはRhymeも意識してあげないといけないと云う事です。これは本当に猛省です。

水俣乗越分岐付近 8:39
槍沢天場 8:55(立ち休み)
ここまで、立ち止まる程度以上の休みは取っていません。1時間ですから休むほどでは無いのですが、さすがにここでは少しだけ休みました。
ここから先は特に足元に注意しなければならないのでペースを通常に戻します。また、先程の恐怖心も完全に消えています。

赤沢岩小屋 9:02
槍沢ロッジ 9:12−9:44
ここまで1時間40分。自分でも笑ってしまいました。昨日練り直した予定では、ここまで3〜4時間だったのですが...
槍沢ロッジの縁先を借りて、アイゼンをしまったり飲み物を飲んだり、チョコを食べたり。

二の俣(吊橋) 10:03
一の俣 10:12
槍見沢 10:20
何も見えないので一気に通過です。

横尾山荘 10:03−10:24
横尾山荘の縁下は先客でいっぱい、休む場所はありません。でも、ここで少しは休みたいです。実は先日目を付けていたところがあって...それは天場と非難小屋のトイレ棟の縁下。ちゃんと椅子もあり水場もあります(天場用の水場ですよ!)。”トイレの前”と云うことを除けば随分とゆっくりできる場所です。軽く休憩して出発です。
が、どうやら、非難小屋が使えたようでちょっと失敗かな?次回からは非難小屋も検討してみましょう。

徳沢園 12:22−13:27
お昼ごはんです。ザックは縁下において、オーバーヤッケ・ズボンの水滴をはらってから食堂(売店?)にお邪魔しました。オーバーヤッケ・ズボンを脱ぐべきなのですが、完全に水滴が落とせたのでそのままで失礼しました。出る前に、椅子が濡れていないことは確認して出てきました。
コーヒーをいただきながら持ち込んだカステラを食べて(持ち込みはちゃんと断りました)、それでも足りないので山菜蕎麦を頼んで...洋梨シャーベットの誘惑に負けて...

明神小屋 14:15−14:20
立ち休みで突破です。少し小降りなって来ている、かな??

河童橋 15:02
ふぅ、やっと戻ってきました、河童橋。無事に帰りついた、と笑みがこぼれます。

西糸屋 15:06
実は、予約していた西糸屋さんにお邪魔することになります。
部屋で受付をしながら西糸屋のおねえさんと話をしていたら、”何時に出ました?”、”7時半です”、”........速いですねぇ”。そうですか?やっぱり速いですか??そうですか...
西糸屋さんと言えばお風呂!受付を済ませて、着替えを引っ張り出して、汗で濡れた服やスパッツ、手袋、帽子を干してから(オーバーヤッケ・ズボン、靴は入り口で預けています)、お風呂!1回目。

夕食 18:30
いつもながらの豪華で美味しい食事に舌鼓を打ちながら、白馬錦の吟醸をいただきました。うぅん、使った以上のカロリーを取り返した予感...じつは、高校時代から履いているニッカズボンがきつくなってきているのです。元々ぴったりではあったのですが、15年で少しだけ(円周で3センチ)増えたようです...
食後、少しゆっくりしてからお風呂。そして寝る前にもお風呂(終了時間ぎりぎり)で都合3回目(^^ゞ
(←↓西糸屋の夕食)

談話室で、ガストンレビュファー氏の本を見ました。1960年代の本で、氏が実際に活躍されていたのは第二次大戦頃からです。が、驚きなのが、今現在の登山、クライミングに関する技術が全てと言って良いほど確立されていることです。また、キスリング全盛の時代に、現在のアタックザックの有効性を説いている事等、氏の先見の明には驚かされるばかりです。さすがにフレンズは出てませんでしたが(^^)
ニュース等、久しぶりにテレビを観てから就寝。

5月5日:上高地→帰宅
起床 5:30
朝一番でお風呂に入りたい!と云う思いから、開始時間直後入りに行きました。が、先客有りです。

朝食 7:00
入山の方優先と云う事で遅目の食事(受付時にこっちから指定できます)にしてもらいました。美味しい...
朝食後、預けていたものを回収し再パッキング。あれ?入らない...入っていたはずなのに?
ちなみに、今回のRhymeの全備重量は食料・水抜きで17キロ。幕営装備と冬用装備がで4〜5キロ使っている計算になります。

観光に出発 9:30
ビジターセンターまで足を伸ばしてみました。1日目に撮った高山植物の正体が”ふきのとう”であることが判明しました。いや、食べてはいけないですよ、国定公園内は植物採取は禁止ですから。

バスターミナル 12:00
タクシーで迎えに来てもらいました。報告を兼ねて新たな情報収集です。

松本駅 13:10頃
また夏に来ます!と云うことで運転手さんと別れました。いや、本当に行きますよ!次こそ穂高縦走!!

松本発:スーパーあずさ8号 13:56
事故のせいで遅れている...しかも満員...座れたのは良いですが車内販売も来ないし散々です。

新宿 15時頃
20分遅れで到着。いつもの事ながら、都会の雑踏は嫌ですね...

と云うことで、またしても雨に見舞われたRhymeとかみさんの残雪期槍アタックは終了しました。
が、総じて楽しかったです。また、かみさんの技術向上にも目を見張るものがあります。正直、ちょっとでも不安を感じるようであれば引き返すことも考えていたのですが、杞憂でした。
また、Rhyme自身にも反省するべき点、列挙するまでも無く多数です。兎にも角にも、楽しくそしていろいろと勉強になった3日でした。

またぞろGPSデータを付けます。昨年の夏のトラックデータも参考に入れていますので、ルートの微妙な違いを比較してみてください。
ルートとトラックのGPSデータ(カシミール3DのGPSファイル=GDB形式)

お部屋に戻る

おうちに戻る