大きなやどかり(2byteの夢童話編)
あるところに小さなヤドカリがいました。
ちいさなヤドカリは大きなカニさんにあこがれていました。
「あんな風におっきくて殻も堅くて堂々としてかっちょいいねえ
カニさんはとっても強いから僕もカニになってヤド子ちゃんや
まわりのヤドカリを守ってやるんだ!」
周りのヤドカリは笑いながら「カニさんみたいになれればいいね」と言いました。
その日からちいさなヤドカリは努力をしました。
「カニみたいになるには身体も大きくしなきゃだめだな」とトレーニングしました。
長老や周りのヤドカリにも教わって頑張ったのです。
「ちびヤドカリ君、カニになるには爪を大きくしなきゃだめだぞ」
「おい、カニというのは尊敬されないとな。 今俺が担いでるエサこれを運ぶのを手伝いな。
人の役にたたなきゃダメだ」
「ついでにあそこのヤドカリも手伝ってやれ。」
ヤドカリはみんなから「さすがカニを目指してる奴は違うねえ」と言われているのが
嬉しくて、そして身体もどんどん大きくなっていったのが満足でした。
ヤドカリはどんどん大きくなっていきました。
他のヤドカリとは比べものにならないぐらい大きくなって、もうあと少しで
大きなカニにも追いつけそうです。
しかし、もうそんなヤドカリに会う「宿貝」はなくなっていたのです。
ヤドカリは自分に会う「宿貝」がどこにあるか長老に尋ねました。
「もう、ワシにはわからないことだ、
お前はもう一人前だし自分でさがすしかあるまい・・・・」
周りのヤドカリにも聞いてみました
「お前は本当にカニになれるなんて思っていたのかい?
ヤドカリはやっぱりヤドカリだ。それより俺は忙しいんだ。
大きな身体で俺を手伝ってくれないか」
ヤドカリはすっかり淋しくなって大好きなヤド子ちゃんに会いに行きました。
でもヤド子ちゃんは恐ろしそうにヤドカリを見上げるだけでした。
すっかり大きくなってしまったヤドカリが不気味でしたし、カニになるために
勉強していたヤドカリの言うことが複雑すぎてもはや理解できなかったのでした。
小さな沢カニがやってきて言いました。
「お前は一体どうして本当にかになんかになりたかったんだ?
おれはお前ほど大きくはないが甲羅ももってる。
大きな力はないけどちゃんとバランスがとれて満足してるんだ。
お前は大きいけれど宿貝がなければ剥き出しでバランスがとれてないよ。」
と剥き出しのヤドカリを爪でつつきながら言いました。
「いたいよ。いたいよ。」
ヤドカリは大きくなったけれど中身は子供のままだったのです。
カニになろうとしたヤドカリはついにはヤドカリの仲間でもなくなっていました。
奇形のヤドカリは自分より小さなカニやヤドカリにさえ及ばないことを始めて
理解したのです。
剥き出しのままのヤドカリは途方にくれて涙をポロリと落としました。
涙はすぐに海の水に溶けて周りには見えないのです。
どれくらいの時間が経ったでしょう。
幼馴染のヤドカリがやってきました。そのヤドカリは一言だけ言いました。
「ミナミの島にいけば大きな貝があるらしいよ。
ホントかどうかわからないけど一緒に探してみようか」
別のヤドカリがやってきて言いました。
「俺はその道すがら歌でもうたっててやろう。楽しいぞ」
またもう1匹のヤドカリは言いました。
「大きなヤドカリって珍しいわね。おしゃべりでもしてみようかしら?」
ヤドカリは少し淋しさがまぎれました。
ミナミの島に向かう途中タラバガニの子供がやってきて割れたガラスコップを
差し出しました。
「これ、中が丸見えだけど貝のかわりになるかもよ?」
ヤドカリはその中に入ってみました。
「時々ちくちくするけどいいね。割れやすいから気をつけないとダメだけど
しばらくはこれで大丈夫かな。ありがとう」
ヤドカリはちょっと変わった仲間たちとミナミの島を目指します。
貝をみつけたらもとのヤドカリの元にもどって変わった仲間たちと暮らすのです。
ヤドカリが貝をもってかえってくればヤドカリがいつか海に帰っても
その貝は魚の隠れ家やまた出てくるかもしれない大きなヤドカリの宿になるのです。
ヤドカリは自分の子供ができなくてもそれぐらいは夢をみてもいいかなと
思うのでした。
どこかでガラスのコップを恥ずかしそうにひきずってるヤドカリをみたら
やさしく手にとって頭をなでてやってください。そしてまた静かに海に返すのです。
すこしヤドカリは少しバランスの崩れた爪を振るかもしれませんよ。