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渡辺水巴の句に〈夕映に何の水輪や冬紅葉〉がある。水巴の心の淋しさを表白した心境と冬紅葉…。 冬の紅葉といえば、東北よりはむしろ関西、京都あたりの地が最適であろう。 この俳句カレンダー「冬紅葉」の句、淋しさを踏まえながらも「色は匂へど」と、俳句に受け継がれている繊細な美意識を心に、水の上に映っている紅葉の風情に溺れることなく、写実美に迫る潔癖感が好ましいと思う。 「色は匂へど」を仮名書きとした文字に対する配慮「いろはにほへど」の調べの永遠性、父水巴、母桂子から引き継がれた心のこもる詩歌の美意識である。 秋を代表する紅葉の美しさに対して、盛りを過ぎて雨風に耐えた最後の冬紅葉は、静かにその形を人知れず炎やし続け、寂び寂びた風景の中にあって、色彩を失わぬ冬の紅葉と「いろはにほへど」の水の上の照応のよろしさ。口遊さむほどに抒情の切なさを感じる。 (森田かずや) |
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冬紅葉いろはにほへど水の上 渡辺恭子 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館391号より |