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作品の岩山は群馬県の妙義山。高崎を出た列車が松井田駅に近づくころ、車窓左手に峨々とした岩峰が連なるのが望まれる。岩峰は大きく三つに分かれ、石門や大砲岩、轟岩など奇勝に富んだ金洞山を中心に、右には中腹に「大」の字のある白雲山、左には金鶏山が聳える。山は噴出した火山の一部といわれ、露出した岩石は長年の風化と侵食により見事に造形化されて、数ある山岳風景のなかでも豪快かつ独特の景観を呈している。 作者は最初、昭和24年に登りに行ったが雨のため登れず、昭和60年に奥の院の鎖場から白雲山の頂上を踏んだ。山頂に立った作者は積年の思いを達成した感激をもって、秋天下に並ぶ上州の山々を心いくまで眺め楽しんだにちがいない。 麓にくだり再び頂上を仰ぐ。岩峰の岩の一つ一つに秋の夕日が斜めにさして濃い影を作り、そそり立つ。 「岩総立ち」の表現には実風景と登頂を果した作者の高揚した心持ちが感じとれる。季題の「秋の暮」が深い味わいとなって動かない。 (石原栄子) |
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岩山の岩総立ちに秋の暮 岡田日郎 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館391号より |