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先年、奈良県東吉野村平野に「たかすみの里」が竣工し、その記念式典に招待され、東吉野の近くの宿に泊まられた。東吉野村は紀伊の嶺々、大台ヶ原、高見山等に囲まれ、吉野川にそそぐ木津川、四郷川の瀬音が四時に奏で、まことに深吉野という思いのする山里である。「たかすみ文庫」には、深吉野の自然を愛した多くの俳人の自筆の俳句や、書簡等が数々展示され、辺りにはその句碑も多い所。 たまたま一人旅のこととて早々と目覚め、宿の庭に下り立っての句である。未だ明け切らぬ黝々とした山が畳なわり、背後から射しはじめた暁の鴇色の空を仰ぎながら、体を包み込む山気にしみじみと秋声を感じとられたのである。 「見渡すや」のおおらかな詠い出し、「秋の声」の季語をふまえた迫力のある調べに、齢の円熟さを深めながら、世塵を断った清らかで澄み切った境地と、悠悠さが感じとれる大柄な句である。 (内山芳子) |
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見渡すや暁の嶺々より秋の聲 大橋敦子 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館390号より |