俳句カレンダー鑑賞 10月



 この作品は、第三句集『花行脚』所収、表題の〈京の塚近江の塚や花行脚〉が昭和六十二年第十一回現代俳句女流賞受賞、正賞は高名な作者の陶器であったが、むしろ賞状に眼をひかれる方が多い。
 飯田龍太・鈴木真砂女・野沢節子・細見綾子・森澄雄、それぞれ毛筆にて署名されておられ圧巻である。
 先師、角川源義の『西行の日』と共に、『花行脚』は「河」連衆の座右の一書である。
 青柿山房、南庭の柚の木は四半世紀を経て沢山の実を付ける、日々のあけくれを共にすごした作者の柚の木はこよなく「はしけやし」なのである。
 かつて作者が「醜女ばかり」と詠じた柚子も、今はそれなりに眉目よき実をもたらし冬至の日が待ち遠しい。
 今年も金色にかがやく熟れた実に陽は、「はしけやし」と届く。
(井桁衣子)
柚子に日の通ひはじめてはしけやし 角川照子
 社団法人俳人協会 俳句文学館390号より

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