木槿は一日花だが、花期は長く、毎日沢山の花をつける。花には、白色や、ピンク色、八重咲きのものなど様々あるが、やはりここは、薄紫で、底に紅色を帯びる普通の花がいい。 今木槿は、朝の清らかな光と空気に包まれている。時折風が吹くと、花を付けた枝は挙って揺れる。あたかも、この時を待ち受けていたかのように。殊に長く伸びた枝先は風に敏く、先駆けて揺れ、いつまでも揺れている。 木槿の花に惹かれていた作者の心は、ふと、木槿から風に移ったようだ。 「風に木槿の色が残る」というこの句の表現は、作者の即座の感覚に依っている。対象を見据えることによって呼び覚まされた感覚である。風を主体とした新しい視点で、木槿らしさを鮮やかに言い止めた。 それに、この句は読んでつまずく処がない。作者の微妙な情感に、言葉が無理なく寄り添っているからであろう。 木槿の花を見るといつも思い出す句である。 第三句集『暁蜩』に所収の、昭和五十五年の作品。 (田畑幸子) |
社団法人俳人協会 俳句文学館388号より |