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第二句集『和紙明り』所収。平成十二年、京阪神在住の風花同人たちと吟行した近江八幡での作。そこは琵琶湖の東岸に位置し、東の潮来に匹敵する水郷。豊年橋の袂から近江水郷めぐりの櫓漕ぎ屋形船が出る。 あるかなきかのさざなみに、蘆の茂りの青さが映えて涼しげだ。「櫓のひとこぎ」に、船は折れ重なった蘆を分けて進む。聞のよい櫓音に、葭切の鳴き声が両舷から被さって姦しいばかり。しかし、それは却って水郷めぐりの興をたかめてくれる。 六月の日差しもほどよく降り注いで気持良い。今はただ船頭の櫓捌きに「身を託し」ていればいい。と、船は蘆の茂りに狭まる水路に差し掛かる。蘆の青葉に優しく触れつつ、また丈高く青々と茂った蘆の爽快さを貰いつつ船は抜ける。 身と心を任せた船は、櫓音に乗って水面を滑る。こんなひとときを持つことの出来た倖せを感謝していると、蘆原の彼方に八幡城趾が見えるのだった。 (井桁汀風子) |
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青蘆や櫓のひとこぎに身を託し 小川濤美子 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館386号より |