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白いご飯に緑の豌豆を炊き込んで軽く塩を利かせた豆飯は初夏にふさわしい。 炊きあがったばかりのご飯である。「大事に」にすべてを凝縮している。「さあ、いっぱいお食べ」そんな声も聞こえる。立ち上がる湯気に濡れて至福の面もちである。例えば久しぶりに帰った息子を母がもてなしている。夜なべして剥いた豆かも知れない。母が育てた碗豆ならなおよい。大串章のふるさとは佐賀県嬉野。<茄子胡瓜母の育てしものを食ふ>という句がある。かつて大野林火は句集『朝の舟』を「望郷が産んだ句集」といった。 腕豆の栽培の歴史は古いが、今のような品種に改良されるのは明治に入ってからである。碗豆はご飯とよく似合う。豆飯はすっかり母親の昧である。 『天風』所収、平成九年の作品である。 (太田土男) |
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豆飯の湯気を大事に食べにけり 大串 章 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館385号より |