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「星辰」は星、あるいは星座のこと。「星辰めぐりはじめけり」によって、夕方から夜への静かな時の推移がうかがえる。 あたりはしだいに闇が濃くなり、そのなかに白牡丹がふわりと浮かぶ光景は神秘的ともいえる美しさだ。やがて星々が輝きを増し、白牡丹は星明りに照らされて別の表情を見せ始めるだろう。 牡丹の句は、昼の花を詠んだものが圧倒的に多い。夜の牡丹を詠んだ句もないわけではないが、闇や月光との取り合わせがほとんどで、星と牡丹という発想の句は記憶にない。 ここでは、「星辰めぐりはじめけり」が一句を際立たせていることはいうまでもない。星座がめぐるその中心に座を得た大輪の白牡丹。作者の視線は、世界の中心ともいうべきこの白社丹から外へ向けられているのである。 白炎のような牡丹が、ふと太陽のようにも思えてくる。広大な宇宙へ読者をいざなうこの作品は、牡丹の句の常識を打ち破った斬新な一句といえよう。 (片山由美子) |
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白牡丹星辰めぐりはじめけり 伊藤敬子 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館385号より |