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この句は、平成十三年度第四十一回俳人協会賞に輝いた句集『貴椿』の開巻劈頭に据えられている。 「貴椿(アテツバキ)」とは、京都の名刹法然院の中庭にある白椿で、その名の通り高貴にして静謐な雰囲気をただよわせている名木であるが、同寺の本堂が原則非公開のために世に知られることは尠い。 それだけに、ひっそりと御簾ふかく隠れ住む美しき女人の姿にも似て、深遠な奥床しさを湛えているともいえよう。 この由緒ある白椿を一物仕立てで描写したのがこの句であるが「たまきはる」は「魂極まる」の意で、一種の枕詞として「白」を引き立てており、また「ひびけり」と照応して強靭に一句の格調を高めている。 二十五菩薩と二十五花の散華で有名な法然院の隠れた一面を描く好作例として、まさに白眉の一句といえよう。 師系としての石田波郷、石川桂郎につながる韻文精神に立脚した志の高い一句として、いつまでも心にとどめたい。 (大島民郎) |
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多まきはる白のひゝけり貴椿 神蔵 器 |
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社団法人俳人協会 俳句文学館383号より |