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結城の里である。紬織りの技術を持って農家に嫁いだ女が、やがて母となり、婆となる。そうした三代の女たちが、手伝いの人もまじえて明るい一室で和やかに仕事をしている。恋猫が家に入ってくれば、紡いでいる糸をくぐらせてやる。すまして通り抜ける愛猫に女たちの笑い声が明るい。 この句は昭和四十六年の作。その三年ほど前につねこは母堂を失った。カリエスの病臥の永かったつねこは、母上を頼りにしてきたので、その悲嘆のさまは尋常ではなかったそうだ。徐々に自分自身を取り戻しつつあった。それは結城の里の紬織りに興味を持ち始めたことによる。しばしば結城に通って俳句を作った。紬を着ていた母への慕情が発端だったのではなかったろうか。母を喪った心の空白に藍が染み込むように、結城の風土はつねこに生きるカを吹き込んで行った。 伝統の織物に一生を棒げて暮す里人たちの素朴さ、真摯さ、そして辛抱強さは、つねこを生きる原点へと誘った。 うぐひすやおぼけ一桶ひとぼつち 名人の鶴病むことく春炬 (松浦加古) |
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つむぐ糸もたげ恋猫とほしけり きくちつねこ |
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社団法人俳人協会 俳句文学館382号より |