俳句カレンダー鑑賞 2月



 第六句集『倭』所収、平成十年の作品である。
 二月礼者というのは、事情があって正月に年始の廻礼ができなかった場合、二月朔日にそれを行うもの。
 鴨を提げている点に注目した。秋、日本に渡って来る鴨は非常に美味である。猟解禁を待ちかね、挙って狩猟に出かけるようだ。
 歩いているのは鴨猟師であろうか。それとも、思いがけなく手に入った鴨に躊躇うことなく訪ねる先を思った。それは気心の知れた人に違いない。〈提げて〉がそれを語っている。おいしい地酒が待っていることだろう。持参した者が容易く鵬を捌く。そして、その骨を気長に叩きつづけて旨い肉団子を作る。忌憚のない意見を交しつつ、ゆったりとした時間を共有できることは、忙しい者にとって此の上ない喜びである。
 二月礼者という季語は、その響き、調べがよいだけに、季語に凭れ掛る嫌いがある。土産に何かを持って行く、誰かを連れて行くといったひとつの形から離れようと試みるも、なかなかその域を出ないものだが、淑気の中にも〈鴨提げて〉の醸し出す野趣が句を際立たせていると共に、二月礼者の意味合いを深くしていると言える。
(藤勢津子)
鴨提げて歩ける二月礼者かな 茨木和生
 社団法人俳人協会 俳句文学館382号より

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